渡辺志保の新譜キュレーション 第2回
グッチ・メイン、レミー・マー……USヒップホップ・シーンを賑わす“ムショ帰り”ラッパーたち
そうそう、カニエ・ウエストといえば、彼が見初めた弱冠19歳のラッパー、デザイナー(Desiigner)も先日、マンハッタン市内にて車中にいたところ逮捕されてしまいました。ドラッグ及び銃を所持していた罪で御用となってしまったのですが、敏腕弁護士のおかげなのか、翌日には即釈放に。「車中には何もなかったんだよ!」と勝利宣言をしながらお迎えの高級車に乗り込むデザイナーの動画がネット上にバラ撒かれました。デビュー曲の「Panda」が発売半年で全米チャート首位を獲得し、あっという間にヒット・メイカーとなってしまったデザイナー。目立ちすぎると、ふとした行動のアラが裏目に出てしまうのでしょうか。まだ若いので、変なトラップに引っかからぬようにカニエががっちり見守ってあげるべきかなと思います。
トラップといえば、なんだかモヤっとするニュースが流れたのが人気R&Bシンガーのクリス・ブラウン。先日、クリス・ブラウンの自宅にいたところ、彼に銃を突きつけられたとモデルの女性から通報が。曰く、クリスの友人のネックレスを見ていたとき、急に彼らが怒り出し、彼女の眼前に銃を出してきたのだとか。その後、家宅捜索を受けて逮捕されてしまったクリス・ブラウンだけれど、保釈金25万ドルを支払い、すぐに自由の身へ。警察の調査の結果、クリスの自宅から銃は見つからず、さらに女性モデルの携帯電話からは彼女が男友達宛に送った「クリスをハメてやる」といった内容のメールも発見され、冤罪の疑いも高まってきた様子(また、彼女は以前に友人のロレックスを盗んだ前科も)。ただ、クリスは以前にも当時の彼女だったリアーナへのDVを理由にした逮捕歴が。この女性、そんなクリスの過去に漬け込んで虚偽の通報をしたのか? それとも本当にクリスが再度、女性に乱暴な振る舞いを行ってしまったのか……? いずれにせよ、今年の9月末に予定していた来日公演も公演延期に。早く事実を明らかにし、もしも潔白の身であれば、早いうちに来日を実現させてほしいものです。
そんなクリス、釈放直後にSoundCloud上で発表した新曲が「WHAT WOULD YOU DO?」。“君の答えが知りたい。もしも誰一人として自分の味方がいなくなってしまったら、君はどうする?”と切実に問いかける一曲です。こんな曲を聴かされてしまうと、やはりクリスは潔白なのではと思ってしまう次第……。
そして、最後に紹介したいのは2014年に6年間の刑期を終えてシーンにカムバックした女性MC、レミー・マーです。「Ante Up」や「Lean Back」などのヒット・シングルを生むも、銃刀法違反などの罪に問われ、投獄を余儀なくされてしまったレミーですが、シャバへの復帰から約2年が経った今年、かつての相棒MCだったファット・ジョーと再びタッグを組んで、シングル「All The Way Up」を発表。変わらぬ相性の良さを見せつけ、同曲はプラチナム・シングルに認定されました。近々、ファット・ジョーとともにコラボ・アルバム『Plata o Plomo』をリリース予定とのことで、期待が高まります。そんなレミーが先日発表したのは、これまた急速に注目を集めている新鋭ラッパー、ヤング・M.Aのヒット曲「OOOUUU」のリミックス。ファット・ジョーやジェイ・Z、2パックにザ・ノトーリアス・B.I.G.らの名前も出しながら自信たっぷりに自身のことをラップするレミー姐さんには、誰にも近づけないような刃物のようなキレ味が。
ちなみにこの楽曲のオリジナル・シンガーであるヤング・M.Aはブルックリン出身の女性ラッパー。彼女は自身が同性愛者であることを公言しており、現在のヒップホップ・シーンでは少し稀有な存在です(もちろん、以前にも同性愛者である女性ラッパーはいましたが、最初からカミングアウトしている人物、そしてヤング・M.Aほど話題になるMCは希少でした)。ニューヨークを代表する女性MCのレミーが、このヤング・M.Aのヒット曲のリミックスを作るということは、同じニューヨークの女性MCとしてエールを贈る、という意味もあるのかもしれません。
というわけで、罪を償い、再度自分のラップ人生に邁進するアーティストたちを紹介させて頂きました。ぜひ、彼らの生き様を感じて下さればと思います。
■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
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