クイーンはなぜ定番ネタであり続ける? 今なお親しまれる“仮装”感覚を考察
クイーンをめぐる「仮装」感覚の楽しさは、ヴィジュアルだけではない。ハード・ロックから出発した彼らは、やがてポップス、ゴスペル調、ディスコ、ソウルなど多彩な音楽を提供し始めた。いってみれば、曲調をあれこれ着替えたのであり、音楽も「仮装」的だったのだ。
多彩さを可能にしたのは、メンバー4人がそれぞれの嗜好で曲を作ったことだ。フレディが圧倒的に目立っていたが、彼のワンマンバンドではなかった。オペラ風の展開がある「ボヘミアン・ラプソディ」やオールディーズなロックンロールの「愛という名の欲望」はフレディ作だが、スポーツ関連で使われ続ける「ウィ・ウィル・ロック・ユー」はギターのブライアン・メイ、ファンキーな「地獄へ道づれ」は今ではバンドを離脱したベースのジョン・ディーコン、レディー・ガガの名の由来でありエレポップの「RADIO GAGA」はドラムのロジャー・テイラーの作曲だ。各人の趣味に差がある多頭のバンドだったから、色とりどりの曲を生んで着替えることができた。
フレディ亡き後もブライアンとロジャーでクイーンを名乗り、外部からボーカリストを招いて往年の曲を演奏していることに賛否はある。だが、2人はフレディに一方的に依存していたのではなく、クイーンの音楽の作り手でもあったのだから、曲を活かし続けたいと欲するのは当然だろう。
そして、今のクイーンでボーカルを務めるアダム・ランバートは、実に適役なのだ。艶のある声を持つ彼は、オーディション番組『アメリカン・アイドル』の出身。そこに出場した段階で「ボヘミアン・ラプソディ」を歌っていた。また、若い頃、ミュージカルにかかわった経験もあるし、芝居っ気のあるステージ・パフォーマンスは、このバンドにふさわしい。クイーン+アダム・ランバートは2014年のサマソニに出演したが、単独公演でフルサイズのライブが日本で見られるのは、今回の武道館が初めて。期待は大きい。
こうしてクイーンの曲は、様々な形で歌いつがれていく……。
■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。