欅坂46は“大人”を敵として時代を描く 「世界には愛しかない」で示されたコンセプト

 長濱ねるのソロ曲「また会ってください」(Type-B収録)も冒頭からアコースティック・ギターの響く楽曲。サンプリングされたかのようなヴォイスが挿入されるトラックも印象的です。

 遠距離恋愛を歌った「青空が違う」(Type-C収録)もまたストリングスやピアノ、アコーステック・ギターの響くサウンド。

 「ボブディランは返さない」(通常盤収録)は、「サイレントマジョリティー」で「渋谷川」を歌っていた「ゆいちゃんず」(今泉佑唯、小林由依)が歌っています。ボブ・ディランっぽい楽曲が出てくるのか……と身構えていたところ、思いっきり日本のフォークっぽい楽曲だったので肩透かしを食らいました。しかし、この曲調はどこかで聴いたことがある……と考えていると、歌詞に「学生街のこの店に」という一節が。ガロの1972年の「学生街の喫茶店」を下敷きにしていることに、この時点で気づきました。アレンジにはCHOKKAKUを迎える入魂ぶりです。

 ちなみに、この連載でAKB48「翼はいらない」を取りあげたとき(参考:AKB48「翼はいらない」が示した、“アイドル現場の論理”とは真逆の価値観)に触れたように、「翼はいらない」のMVの舞台も1972年でした。なぜそんなに1972年が好きなのか。それは単なる懐古趣味というよりも、その時代を知る世代にも「刺さる」ものを秋元康が狙っているのではないかと感じます。

 「ひらがなけやき」(通常盤収録)もまさにアコーステック路線の楽曲。グループ名を織りこんだ歌詞の「ひらがなけやき」には、スッと聴けるシンプルな美しさがあります。

 「世界には愛しかない」は情報量が多いのですが、「大人」との関係性を重視した歌詞や、アコースティック重視のサウンドといったコンセプトが多くの楽曲に共通しています。そして、「渋谷からPARCOが消えた日」や「ボブディランは返さない」への言及に多くの文字数を費やしてしまう自分自身に、「まんまとトラップにハマっているのではないか?」と考えてしまいました。シングルなのにコンセプチュアル・アートのようなのが「世界には愛しかない」なのです。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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