森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.10
WANIMAはシーンのど真ん中に躍り出たーー8月3日発売の注目新譜5選
サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』(AL)
Suchmos、never young beachなどのライブを観るたびにサニーデイ・サービスのことを考えてしまう40代の私だが(実際、サニーデイ・サービスがいなかったら、現在の東京インディーシーンはまったく別の形になっていたと思う)、前作『Sunny』以来約1年10カ月ぶり、活動再開後3枚目となる本作を聴いて、このバンドの凄みを改めて思い知らされた。バンドグルーヴは丁寧に抑制され、メロディはどこまでもスムーズなのだが、永井博の手によるアーヴェインなジャケットとは真逆の(?)ヒンヤリとした殺気のようなものを感じてしまうのだ。本作の制作にあたって曽我部は数10曲の楽曲を用意し、これまででもっとも長い制作期間を要したそうだが、その過程でサニーデイ・サービスの音楽は極限まで研ぎ澄まされ、ゾクッとするような鋭さを手に入れた。2016年の東京におけるバンドミュージックの極北と言い切ってしまいたい名盤の誕生。今年はスピッツの『醒めない』と本作『DANCE TO YOU』で決まりではないだろうか。
吉澤嘉代子『吉澤嘉代子とうつくしい人たち』(ミニAL)
サンボマスター、私立恵比寿中学、岡崎体育、伊澤一葉、ザ・プーチンズ、小島英也(ORESAMA)、曽我部恵一とコラボレーションを繰り広げたコンセプト・ミニ・アルバム。父親が聴いていた井上陽水をきっかけに音楽に興味を持ち、昭和の歌謡曲、ポップスにも造詣が深い吉澤のボーカリストとしての資質を、幅広い年代・ジャンルのアーティストたちがそれぞれのスタイルで引き出している(または融合している)わけだが、大瀧詠一が松田聖子に提供した楽曲を想起させる「ものがたりは今日はじまるの feat.サンボマスター」、80年代ニューウェイブ風ポップスを下敷きにした「アボカド feat. 伊澤一葉」、サイケデリック・フォーク的な音像と2010年代の東京を描写した歌詞が溶け合う「東京絶景 feat.曽我部恵一」など名曲がずらりと並んでいる。自分自身の思いや感情よりも架空の物語を描くことを得意とする吉澤は、どんなサウンド、どんな歌に対してもフラットに臨み、その色にしっかりと染められる楽しさを知っているのだと思う。曲によってナチュラルに表情を変えられる、本当に魅力的な歌い手だ。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。