クラムボン・ミトの『アジテーター・トークス』Vol.2 バンダイナムコスタジオ・内田哲也

クラムボン・ミト×『アイマス』サウンドP内田哲也が語る、アイドルアニメ・ゲームに“豊潤な音楽”が生まれる背景

 

「『アイマス』は初期ハロプロ的な生感」(ミト)

――現在は『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』自体がすごくプラットフォーム化していますもんね。『アケマス』のときと違って、数え切れないぐらいのアイドルがいて、そこにいろんな曲が提供できて、冒険もできる。

内田:プラットフォームを持続させるためには、やはり一定以上のクオリティは提供し続けないといけないので、そこは大きいプレッシャーになっています。

ミト:そのクオリティを持続するのは本当に大変ですよね。出せる場所とレスポンスが伴わないと難しいわけですから。そういう意味で、日本のクリエイターたちを伸ばしている『アイマス』シリーズの功績は大きいと思いますよ。反対に、バンドマンにとってのそういうプラットフォームって何なんでしょうね。ラッパーは今『フリースタイルダンジョン』がプラットフォームとして順調に機能しているわけで、アイドルは楽曲コンペがある。じゃあバンドマンは自分たちの楽曲で競い合う場所をつくれているのかと。皆が皆に「楽曲提供しろ」というのも違う気がするし……。そういえば『アイマス』楽曲は生音を使うことが多いですよね。

内田:ありがたく生音を録らせてもらえる環境なんです。やっぱり生音を入れると空気感が違うというか、グッと人間の持つグルーヴ感が入るので、曲が動き出して活き活きしますね。

ミト:最近は石濱くんの作った「Tulip」(2016年5月リリース『THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT MASTER 02 Tulip』に収録)に衝撃を受けたんですけど、この曲は「今日日アイドルアニメコンテンツにここまでエレクトロクラッシュを入れるのか!」というくらいのファンキー度で。あれ、確かベースってKIRINJIの千ヶ崎(学)君ですよね?

内田:はい、千ヶ崎さんに弾いてもらっています。エレクトロクラッシュを大胆に取り入れても『アイマス』曲としてグッとくるのは、石濱さんなりの神前イズムをしっかりと継承しているからだと思うんですよ。だからあそこまで振り切っても『アイマス』と乖離しない。

ミト:そのあたりが『アイマス』楽曲の個性かもしれないですね。たとえば他のアイドルアニメ的なコンテンツの音楽って、生音を打ち込み級に磨いて、現場での機動力で攻めてくるものがすごく多いと思うんですよ。生音が入っているものもあるけど、放送に負けないくらい尖らせて、無機質にシェイプしていくものとか。『プリパラ』や『ナナシス(Tokyo 7th シスターズ)』、『アイカツ!』はその方向かも。それらと比較したときに、『アイマス』は良い意味でウェットな生っぽさを感じるんですよね。

内田:現場では「生っぽく」という言葉が飛び交っていますね(笑)。歌のディレクションをしていても、単に声を当てて歌にするよりも、血が通ったものにしたいと思っているんです。実際アイドルがステージで歌っているのをイメージしてもらったりとか。よくディレクションで言うのは「このアイドルだったらこの曲をこう歌うよね?」ということで。例えば、キュート系のアイドルだって、バラードやクールな曲を歌ったら、その楽曲の世界観に合わせて声のトーンも変わってくるはずなんですよ。だから、アイドル本来の声を軸にしつつも、割りと楽曲に寄り添って、生っぽく歌ってほしいという気持ちが強いんです。

ミト:わかりやすく例えると、『ラブライブ!』周りのサウンドにはAKB48グループ的なハイブリッド感と研ぎ澄まされたような印象があって、『アイマス』は初期ハロプロ的な生感を感じるし、歌いだしても「あ、この人歌い始めた」というのがわかるんです。

内田:僕らとしては、汗をかいて歌っている感じを出したいんですよ。だからといってうまく歌うことを放棄しているわけではなくて、ピッチやリズムには当然気を付けつつ、表情や活き活きした感じを大切にしています。だから「ここは笑顔で」とか「ここは夢見る乙女風に」とお願いすることもあります(笑)。

ミト:僕の曲についてもボーカルディレクションは柏谷(智浩/日本コロムビア社ディレクター)さんにお願いしたんですが、「笑顔で」という指示がまさにありました。この言葉でどこまで表情膨らませるかなんてその人次第だし、ものすごくナローな表現ですよ。でも、あえて声優さんの個性を出していくというのは、私たちにはない発想で。私たちはもっと言葉でトランスレートして、「こう歌ってほしい」というオーダーを、歌い手さんが自分で引き出したんだぞと思わせるぐらいの演出を作って歌わせようとするから。

内田:僕らの場合は歌う方が声優さん、つまりキャラクターを演じている方なので、セリフのディレクションで「ここはこういう表情です」とお願いする感覚と変わらないんです。

 

――その路線は初期から徹底されていたのでしょうか?

内田:割と初めからそうですね。基本的には活き活きした感情で歌っていたほうが、聴いていて元気をもらえたりすると思うので。

ミト:あと、レコーディング現場で面白いと感じたのは、最後のTD前に、みんなが自分のヘッドフォンを持ち寄ってじっくり聴いていること。それぞれが持っている種類もバラバラで、すごく健気でストイックだなと思いました(笑)。

――意図的にそれぞれ環境を変えてモニターしているんですか?

内田:スタジオのスピーカーだけで確認するのではなくて、なるべくリスナーに合わせた環境も用意しているんです。あと、なにより自分の耳に馴染んでいるヘッドフォンのほうが、音の差異がわかりやすいというのもありますね。とはいえ、ヘッドホンを繋ぐキュー・ボックス次第でスタジオ毎に音が違ったりもするので、そこには注意しつつではありますが。

――ちなみに、柏谷さんは『アイマス』の音楽における独自性について、どのように考えているのでしょうか。

柏谷智浩(以下、柏谷):ほかコンテンツの音と『アイマス』の音における違いについて考えたことは何度もあるんですが、なんとなく「キャラ感と違和感」なのかなと思っています。歌うアイドル独自の個性や表情感はそのアイドルのファンにとっては素敵な味付けになるのですが、そのアイドル独自のキャラクター感を知らない人が聴くと異物が入ったような違和感を感じるのかなあと。その異物感をおさえて楽曲自体の世界感に歌を寄せれば寄せるほど、ポップスとしての完成度は上がるんですけど、そのアイドルが歌う意味合いからは遠のいていくという。あとはマニアックな部分ですけど、ハイ(高音域)の処理が違うのかなと感じました。

ミト:確かに、いちファンとしてはうまく歌っているところよりも“滲んでいる”ところが聴きたいんですよね。でも、だれか知らない人だと確かに違和感になるという意見もわかります。

柏谷:あと、全体曲でもソロミックスになる可能性があるのも大きいのかもしれません。

ミト:それは大きいですよ(笑)。私は『アイマス』楽曲のなかでも「shiny smile」が好きで、特に(秋月)律子さんのバージョンが大好きなんですよ。あのテイクがM@STER VERSION(フルサイズ)で録れているということが、私にとっては奇跡に近いというか。あの曲も、サビの展開から少し奇妙なコード進行になっているのがお気に入りで、『アニマス』(アニメ『アイドルマスター』)の展開を経て聴くとよりグッとくるんです。『アイマス』楽曲は、今までつくっていた曲が『アニマス』や『デレマス』で呼び出されることによって、曲の持つ意味が変わってくる部分もまた楽しみの一つですね。

内田:作り手としては、過去に作った楽曲がアニメを経て違う意味を持っていくことには驚きと面白さを感じています。

ミト:特に『アケマス』『モバマス』(Mobage版アイドルマスター シンデレラガールズ)周りからの呼び出しはすごい。曲を使った瞬間に無駄に考察スレが伸びるんですから(笑)。

内田:こちらも、過去の曲を使ってくれて反響があると純粋に嬉しいですよ(笑)。

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