小田和正、“J-POP界最強”である理由 サウンドクリエイターとしてのストイックさを紐解く

 ここまでは、誰もが感じていることでしょうが、さらに踏み込むならば、サウンド・クリエイターとしての小田和正にも言及しておきましょう。先述のユーミンや山下達郎といった洋楽ファンにも大きく評価されてきたアーティストと違って、小田和正の音楽はサウンド面についてほとんど語られることがありません。それはおそらく、彼の歌の存在感の強さというのもあると思うのですが、逆にアレンジを主役にしすぎない彼なりの美学があるからではないでしょうか。これまでの楽曲を聴いてみると、基本的にはアメリカ西海岸のエッセンスが強く感じられます。特に、70年代から80年代にかけてのAORやアメリカン・ロックの影響は濃厚。具体的に挙げると、TOTOやシカゴ、ボズ・スキャッグスといったあたりなのでしょうが、ポップ・フリークにありがちなマニア心をくすぐるような引用はほとんどない。その代わり、こういったアーティストを手がけてきたエンジニアのビル・シュネーや、エリック・クラプトンをはじめとするトップ・アーティストが信頼を置くベーシストのネイザン・イーストを起用して、さりげなく洋楽の香りを取り入れているのです。そして、かたくななまでに流行りの音を取り入れず、ワンパターンともいえるほど的確で安定したサウンドメイキングを施すことで、これまた古びない歌に仕上げているのです。

 こうして彼の音楽を紐解いていくと、デビュー当時からやっていることが何も変わっていないということに気づきます。もちろん、音楽家としてのスキルの成長はあっても、向かっているところは一切ぶれず、自分が生み出す音楽に自信を持ち続けている。ここまで揺るぎなく、頑固な態度を貫きながら、時代に取り残されず第一線をキープしているアーティストはあまり思い浮かびません。本人は決して派手ではないし、傍から見てもストイックなイメージです。だから、そんな自覚もないのかもしれませんが、小田和正こそがJ-POP界最強の怪物的なアーティストであることは間違いありません。

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。

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