円堂都司昭による追悼コラム

森岡賢は、新たな化学反応を求めていたーーSOFT BALLETからminus(-)までを改めて振り返る

 2014年の結成以降、最近の森岡が力を入れていた2人組ユニットのminus(-)でも、彼は「踊る体」の存在感を持ったキーボーディストであり続けていた。そして、このminus(-)で森岡がタッグを組んだのは、SOFT BALLETの前身バンド、volage時代からの旧友、藤井麻輝だった。

 とはいえ、かつてのSOFT BALLETが仲良し三人組ではなく、音楽嗜好や性格の異なる同士が集まったため、緊張感が続く関係だったことは知られている。多くの歌謡曲のヒットに関わった作曲家、編曲家である森岡賢一郎の息子として生まれた森岡賢は、幼少時から芸能界の華やいだ空気を自然に吸いこんでいた。音大中退の彼は、学校で音楽教育を受けた実力、教養がありつつ、アーティストとしてはキャッチーなメロディのポップな曲を作った。それとは反対に藤井は、ノイジーでポップスの枠組から逸脱したがる方向性を持っている。パフォーマーとしてのありかただけでなく、音楽性も反対だからこそ化学反応が起きることに2人は自覚的だった。個々に強い個性があるだけに、その個性のなかで自己完結してしまうことを避けようとしたのだろう。

 minus(-)は、昨年12月にセカンド・ミニ・アルバム『G』をリリースしている。EDMに傾斜しつつポップなダンス・ミュージックに取り組む森岡に対し、藤井は異化効果を与える役割である。また、森岡が歌うだけでなく、J(LUNA SEA)、Picorin(元Cutemen)など曲ごとにタイプの異なるヴォーカリストを起用する形をとった。彼らはこのユニットで昨年、ヒカシュー、BELLRING少女ハート、女王蜂など、minus(-)とはかなり異質なグループたちと対バンを行っている。このうち、アイドル・グループのBELLRING少女ハートに対しては「The Victim」を楽曲提供するとともに、『G』で同曲をセルフ・カヴァーした。

 森岡は一連の活動で、新たな化学反応を求めていたように感じる。一方、藤井はこのユニットについて、森岡と初めて会った時の衝撃を形にしようと思ったと述べていた。つまり、原点回帰であると同時に次のページを開く活動になるはずだったのだ。

 森岡の死によって、minus(-)の当面のツアー予定はキャンセルされた。だが、ユニットのFacebookでは、新作の制作が続行されており、8月、11月にminus(-)としてのライブを行うことが告知されている。盟友の残したものを藤井が引き受けるということなのだろう。今は森岡賢という特異な才能が失われたことを悼みつつ、minus(-)の新作を待ちたい。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。

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