『ジョン・ライドン 新自伝 怒りはエナジー』出版記念対談

日高央×小野島大が語る、ジョン・ライドンの比類なき音楽人生「ジョニーは革命を2回起こした!」

 

ピストルズで完全に人生が変わった(小野島)

――小野島さんは、ピストルズもリアルタイムで体験されていますね。

小野島:日高さんより10歳くらい上だから、完全にリアルタイムです。ピストルズを聴いて“遅いと思った”という話でしたけど、僕は逆に“なんてスゴいスピードなんだ”と思ったから。いま聴くとそんなことはないんだけど、もうグチャグチャだし速いし、カオスみたいな感覚で。あれで完全に人生が変わったなと。

日高:ザ・クラッシュは逆にちゃんとしていましたよね。

小野島:クラッシュは正直、ポップすぎるなと思っていて。音はスカスカだったけれど全然ポップだし、これでピストルズみたいな歌だったらもっとカッコいいのにな、と思っていた時期もありました。

日高:ああ、ミック・ジョーンズは結構スイートな曲を書きますもんね。

小野島:特にファーストとかは本当にスカスカでペラペラな音で、歌だけは妙にポップという感じ。最初は馴染めなかったという記憶はありますね。

日高:ザ・ダムドはどうでしたか? いま聴いても何しているかよくわからなくて、まさにカオスだと思うんですが。

小野島:ダムドはカッコいい。あれは(プロデューサーの)ニック・ロウが偉いと思う。

日高:あれ、よくまとめましたよね。たぶんメンバーには嫌われてますけど(笑)。プロデューサーって、なんであんなに嫌われるんだろう。

小野島:ああいうチンピラがバンドをやると、プロデューサーの役割ってよくわかっていないんじゃないですか。ブースの向こうのコントロールルームでエンジニアと相談しながら卓をいじったりいろいろやってても、若いミュージシャンにはよくわからない。たとえば、スペシャルズがエルヴィス・コステロにプロデュースされたときに、「あいつ、何もやってねえじゃん」って思ってたり(笑)。フリクションと坂本龍一の関係もいろいろあったみたいだし。プロデューサーって、本当は大変な作業をしているのにね。

 ピストルズに話を戻すと、以前サンレコ(サウンド&レコーディング・マガジン)で、ファーストは演奏されたものをクリス・トーマスが切り刻んで、パッチワークみたいにして作ったという話を読んだんですよ。実は、ピストルズはテクノだった(笑)。

日高:いま聴くと、すごい音像がいいですもんね。

小野島:そうなんですよ。でもただ聴いている分にはまったくわからなかった。めちゃくちゃグルーヴ感があってかっこいいハード・ロックに聞こえた。それが衝撃的で、もう完全に自分の音楽観が、そこでコロッと変わった感じがあって。

日高:メチャクチャ羨ましいです。

小野島:でも、それは世代ごとにみんな思ってるんですよ。僕もビートルズの衝撃を知っている人は羨ましいと思うし、多分、日高さんの下の世代からすると、「ラフィンの登場を知ってるなんて、マジすか!?」という感覚でしょ?

日高:確かに、名古屋なんかに行くと若いパンクスが多いので、よく言われますね。面白いのは、東京以外の街に行くと、いまだにピストルズが神格化されていて。THE STARBEMSのギターは元「毛皮のマリーズ」の越川和磨なんですけど、和歌山出身で、もうとっくに死んでいるシドになりたくてベースを始めた、と。いま34歳だから、シドは死んでるわ、ピストルズはないわ、という世代なんですけど。

小野島:シドなんかは完全に、純粋に結晶化したパンクのアイコンというか、実態があろうがなかろうが関係ない存在になっている。

日高:そうですね。逆に生きていると……例えば、スティーブ・ジョーンズとかポール・クックみたいに、正直、しょぼくれた印象になっちゃうのが普通ですよね。その意味で、ジョン・ライドンはしょぼくれないのがスゴい。イギリスではバラエティにもけっこう出ているし、露出が少なくて神格化されているわけでもなく。そこが本当に不思議で、何をやっても許されちゃうというのは、日本で言うと忌野清志郎さん的な立ち位置なのかな。ミチロウさんもちょっと違うし、清志郎さんもあそこまでエンタメじゃないか。

小野島:良くも悪くも、イメージがあまり変わらないですよね。PiLの末期くらいから、しばらく音楽を全然やっていない時期もあって。正直、作っている音楽もあまりおもしろいと思わなかったので、けっこうボロカスに言ったこともあるんですよ。でも、結局は憎めないというか、常に何をやっているのか気になる存在ではありますね。ピストルズの再結成だって、「つまらないに決まってる」と言いながらもわざわざ観に行って、やっぱりつまらなくて、「俺、ファン以外のなにものでもないな」と思った(笑)。

日高:ただ、再結成の仕方が面白かったですよね。

小野島:記者会見のときに、「我々は共通の目的を見出した。金だ」と言ったのは最高でしたね(笑)。当時って、再結成ビジネスというものに後ろめたいイメージがあったじゃないですか。みんな「どうせ金なんだろう?」と思いながら、誰も口に出さないというか。それをあえて言っちゃうところが、ジョン・ライドンなんだろうなと。

日高:しかも、たぶん嘘ではない。

小野島:新譜を出さないでツアーだけやるんだからね。新曲も作らないし、アレンジも変えないし(笑)。そりゃ金目的だろうなっていう。でもそれ以降、同じような感じで再結成してツアーばかりやってるバンドって一杯いるじゃないですか。でもそういう人たちは「金目当て」なんてことは言わないし、言われない。そういうのは全部ピストルスが引き受けてくれた(笑)。

日高:新譜を出したいなんて気持ち、これぽっちもないでしょうしね(笑)。ホント、面白いオジサンです。

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