LACCO TOWERが日本語詞で歌い続ける理由「『言わずもがな』っていうのがすごく大事」

LACCO TOWERが日本語で歌い続ける理由

「10歳下のヤツらとバチバチやりあう覚悟はしてる」(塩崎)

――今回の2ndアルバムはそれらのルーツを感じさせる楽曲を盛り込みつつ、全ての曲が物語を構成するような仕上がりですね。『心臓文庫』というタイトルのインパクトも大きくて。

松川:漢字を4つ並べると強く見えますよね(笑)。

――これ以上意味がなくなるとそれはそれで分からなくなるという。

松川:漢字っていうだけである程度、体裁が整うので、ひょっとすると安っぽくなりがちな部分ですし、中二病っぽいと感じるかもしれない。でも、ギリギリのところはいつも狙いたいなって思ってるんです。

――意味合いとしては、10個の短編小説が入った文庫本ということなのでしょうか。

松川:そうですね。気持ちや心、心臓を詰め込んだ文庫本ということです。「耳で読んでもらいたい曲」というコピーもそこから派生してつけたものです。

――1曲目の「罪之罰」は、壮絶なリズムチェンジやプログレのような構成で、冒頭から攻めていますね。

塩崎:今回、シングルの『薄紅』で僕らのことを初めて知った方もかなり多いと思うんです。だからこそ、ポップな「薄紅」のイメージで聴いたときに「これホントに同じバンド!?」と感じさせて裏切りたかったという意図もあるんです。

――たしかに(笑)。アルバム曲が出てきた時に「薄紅」の置き場所ってすぐに決まりました?

塩崎:「未来前夜」というリード曲があったので、そこからつなげていこうとすぐに決まりました。流れとしてもにしっくりくるものになったと思います。

――そして「楽団奇譚」はライブステージでのパフォーマンスを表現しているような歌詞ですね。

松川:この曲については、歌舞伎を見ながら歌詞を書きました。最近、歌舞伎をちょっと嗜むようになったので、その口上を意識したんです。ただ、デモの段階で真一ジェットがかなり遊び狂っていたので、まじめな歌詞をつけてもしょうがないと思い、こっちも遊びを入れてみることにしました。

――LACCO TOWERの楽曲は真一さんという作曲家と松川さんという作詞家のタッグでもあるわけですね。

松川:ああ、そうかもしれないですね。今回の作品は完全に分かれました。前まではみんなでアレンジしてて、僕もわからないなりになんですけど、「そこベース、もっとウンウン行かれへん?」とか「高いところへ音行かれへん?」とか「リズム、8ビートの方がいいんじゃない?」と言ってたんですが、今回はほぼ入ってないですね。どちらかというと、楽器隊でほぼ固めてくれた人たちのなかに入って、僕は最後に歌詞でお化粧して作品にしたみたいな感じです。

――松川さんの歌詞は季節だけでなく温度や湿度も感じさせますね。例えば「蛍」の<夕立が去った夜だから 濡れた道は月のせいで きらきらと 輝くから ほら夢みたいだ>とか。

松川:ありがとうございます。

――艶とか日本的に感じる部分はそういうところも大きいのかなと。

松川:「蛍」に関してはマジョリティに行く直前のちょうどいい、イモっぽさと洗練された感じのあいだのちょうどいいところをずっと探してて(笑)。言い切らないけど、言い切りたいみたいなとこだったり、言わな過ぎても意味がわからないんで。この曲は僕も10曲の中でもすごく好きな曲です。

――日本人には「全ては言わない」美意識がありますね。

松川:全て日本語詞にしている意味って、そこのような気がしてるんですよ。「言わずもがな」っていうのがすごい大事な気がするし、それこそが日本語の特性というか。日本で育ってきた人間なんで、日本語での表現が一番しっくりくるというのももちろんありますし、その表現の素晴らしさが自分を変えてくれましたから。最初は海外の本から入りましたけど、そこから太宰治や日本人作家の小説に触れたことで、あらためて気づいたというか。10かゼロかじゃない美しさが日本語にはあるし、バンドとして楽器隊が好き勝手やってる中に言葉を乗せていけるこの環境が、自分にとってはすごく幸せですね。

――10かゼロかやイエスかノーか? じゃないことを歌えることによって、松川さんは自分の中の気持ちが出せる?

松川:それぐらいで気持ちを出してる方が僕もちょうどいいというか。言いきってしまうことは何かと戦うことだと思うので、そこに対しては恐怖心もありますね。それは僕がたぶん弱虫だからだと思うんですけど。他のボーカリストを見てるとすごく強い人のように感じてしまうんですよね。そういう人が牽引する世界は確かにあって、付いていく人が多いということもわかっているんですけど、大多数の人はたぶん僕のような感性なんですよね。でも、そんな僕だからこそ歌えたり鳴らせるロックもあるでしょうし、そのほうがより近い存在として感じてもらえるのかもしれない。輝いてない部分の方が多い人が、輝いてる場所で何かを歌ってるという、そのアンバランスさも面白いなと思うし(笑)、そういうボーカリストでずっといたいです。

――弱虫のフロントマンのままでいようと?

松川:はい。なんかね、僕が全知全能みたいな人間であればそんなことする必要ないんでしょうけど。やっぱりこういう世界に来て周りの人といろいろお話しをしたり、いろんなことを経験すると、ほんとに自分が凡才だったことがすごくラッキーに感じるんです。最初は何も持っていない自分がすごく怖かったし悲しかったんですけど、「そんなヤツが音楽をやって誰かに何かを伝えてもいいじゃないか」とどこかで思えるようになった時に、扉が開けたような気がします。最近はライブでもより素直であったほうがいいのかもと思うことも増えました。

――素直さという意味ではラストの「相思相逢」の優しいメロディとJ-POP調のアレンジ、”ありがとう”というワードで終わるところも、LACCO TOWERの音楽として新鮮に感じました。

松川:これは今回書いた内容のなかでも、一つ間口を広げることができたと思えるものです。バンドってそれぞれ、自分たちがやっていいこと、やっていけないことの境界線を引いていると思うんですけど、今の僕らの年齢になってみて、いろんなものをひっくるめて「ありがとう」って言ってみることに前向きになれたり、ライブではそういうことを常に言っているからこそ、自分の中で納得感があったんです。前の9曲を書き上げた後にこの曲の歌詞を書いたというわけではないのですが、今の状況をまとめられる曲として「相思相逢」はまさにベストで。歌詞としても僕の中で一歩前進したというか、少し優しくなれた曲になりました。

――LACCO TOWERの曲は、耳で聴いたままではなく「耳で読んでほしい曲」であることが、リスナーそれぞれの想像をかき立て、感覚を震わせているのだと思います。

松川:もちろんストレートに伝える方が、ポップスとしては大事なのかもしれないですし、エッジを利かせるのは簡単なんです。でも、どちらにも振り切れなくて自分のアイデンティティを求めることができず、悩みながら歩いて行ってる人の方が多い世の中だからこそ、マイノリティとマジョリティの間にある、ちょうどいい感覚を届けたいんです。LACCO TOWERの歩みかたも今までそうだったので。少しずつチャレンジしていくことこそがロックだと訴える、そういうバンドでありたいなと思うんですよね。

――ところで今夏はさまざまなフェスに出演するそうですね。

塩崎:初めて出演させていただくフェスも多くて、新人枠として出るからには、10歳下ぐらいのヤツらとバチバチやりあう覚悟はしてます(笑)。

松川:持ち時間が短いので、ソリッドに僕らのかっこよさを伝えるだけで終わるようなライブをしようかなと思います。どうしても僕らは本質を伝えるのに時間がかかるバンドだと自覚しているので、一つの風景として僕らのパフォーマンスを楽しんでほしいです。ちょっとでも琴線に引っかかったら、後でキャッチアップしてくれればと。

――昨年の『TRIAD ROCKS』でも初見のお客さんを驚かせていたし、大きいステージでイニシアチブが取れるバンドだと思うので、夏以降もっと大きなところへ行けるんじゃないですか?

松川:ライブをやって成長する部分があるのはたしかですね。35歳ですけど、まだまだ伸びしろはあると思います。それに、この年齢でずっと青春を謳歌しているからこそ、面白がってもらえるのかなって。ミュージシャンやバンドマンだからというわけではなく、一人の人間として精一杯表現している様子に何かを感じてもらえたら嬉しいです。

(取材・文=石角友香)

■リリース情報
アルバム『心臓文庫』
発売:6月8日(水)
価格:¥3,000(+税)
<収録曲>
1.罪之罰
2.未来前夜
3.薄紅
4.蜂蜜
5.楽団奇譚
6.蛍
7.世界分之一人
8.秘密
9.珈琲
10.相思相逢
全曲作詞:松川ケイスケ/作曲・編曲:LACCO TOWER

薄紅:フジテレビ系TVアニメ『ドラゴンボール超』
エンディング主題歌(2016年1〜3月)

秘密:『劇場版 新・ミナミの帝王』主題歌(今冬公開予定)

■配信情報
アルバムリード楽曲「未来前夜」先行配信中
iTunes Store
※アルバム予約注文も可能

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■ライブ情報
『LACCO TOWER 「心臓文庫」リリースツアー“心造旅行”』
7月18日(月・祝) 恵比寿LIQUIDROOM《ワンマン》
9月9日(金) 神戸 太陽と虎 【GUEST】??/??
9月10日(土) 岡山CRAZYMAMA 2nd Room 【GUEST】??/??
9月11日(日) 広島CAVE-BE 【GUEST】??/??
9月17日(土) 仙台CLUB JUNK BOX 【GUEST】??
9月22日(木・祝) 札幌BESSIE HALL 【GUEST】??
9月25日(日) 福岡Queblick 【GUEST】??
10月8日(土) 名古屋APOLLO BASE 【GUEST】??
10月14日(金) 京都MUSE 【GUEST】??
10月16日(日) 新潟CLUB RIVERST 【GUEST】??
10月22日(土) 高崎clubFLEEZ 【GUEST】??
10月28日(金) 大阪ROCKTOWN 【GUEST】??
11月12日(土) 品川ステラボール 《ファイナルワンマン》

FC先行受付(抽選):6月8日(水)12:00~6月19日(日)23:59
※7月18日(月・祝)恵比寿LIQUIDROOM以外の全ての公演が対象。
LACCO TOWER OFFICIAL SITE

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