柴 那典の新譜キュレーション 第4回
ビヨンセ、アノーニ、SKY-HI…… 社会性を備えたコンセプチュアルな最新アルバム5選
SALUの2年ぶりのアルバム『Good Morning』も、今、日本においてラッパーが何をすべきかを追求したような一枚。日本のヒップホップ・シーンの充実を伝えるようなアルバムだ。
tofubeatsやmabanuaなど多彩なトラックメーカーを迎え、Salyuや中島美嘉などの女性シンガーがフィーチャリングに参加した新作。聴き心地のよいスムースなトラックの数々に乗せて綴られるのは、少しずつ未来が歯抜けになっていくような空虚な不安が渦巻く今の時代の苛立ちや葛藤。リード曲「Nipponia Nippon」はそれを彼らしい視点で描く。
アルバムのラストが、地元・厚木を歌った「AFURI」で終わるのも示唆的だ。
高速道路に乗って都市から郊外へと向かう目線と共に描かれる「仲間愛」が、アルバムの軸にある「満たされなさ」に対しての一つの回答として描かれる。そういうアルバムのストーリーは、すごく今の時代的だと思う(札幌出身のSALUにとって厚木は地元であっても“故郷”ではないのもポイントだ)。
ちなみに、SALUの盟友AKLOも、メジャーデビュー作『Outside the Frame』を6月22日にリリースする。海外のヒップホップシーンに精通した彼は、おそらく『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』に最も刺激を受けた日本のラッパーのうちの一人だろう。今年1月にはシングル「We Go On」もリリースされている。
こちらも期待したい。
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter