My Little Loverが奏でた現在進行形のポップス 『evergreen』『re:evergreen』完全再現ライブレポート

 My Little Loverの『evergreen』と言えば、小林武史プロデュースの〈究極のポップ・アルバム〉として、90年代J-POPシーンに燦然と輝く名作。300万枚というセールスは、日本の人口のほぼ40人に一人がCDを持っている、文字通りのモンスター・アルバムだ。その丸ごと再現を含むデビュー20周年記念ライブ、特別な一夜の会場は、東京・国際フォーラム ホールC。キャパシティは1502席。あまりのぜいたくさに、うしろめたいほどに胸がときめく。客席には、20年前の少年少女たちを中心に、次の世代の若者たちもちらほら。柔らかく落ち着いた空気に、少し緊張感の混ざった独特の雰囲気。

 19時5分。派手な演出も何もなく、ふらりと演奏者たちが現れ、最後にakkoがマイクの前に立つと、いきなり演奏が始まる。第一部は、昨年リリースした20周年記念作『re:evergreen』を曲順通りに。1曲目はフィル・スペクター風のゴージャスなアレンジに飾られた、ハッピーなクリスマス・チューン「wintersongが聴こえる」。akkoは白いシャツ、白いスニーカー、ナチュラル質感の紺のスカートには星模様。歌いながら、時折グロッケンを叩く。「pastel」では軽やかにファンキーなリズムに乗り、小林武史が立ち上がってすごいキーボード・ソロを弾いた。メロウなバラード「星空の軌道」は、ドラム・沼澤尚の刻むしなやかな16ビートが心地よい。バンドメンバーは、小林、沼澤、沖山優司(B)、西川進(G)、岩城直也(Key)、ヤマグチヒロコ(Cho)、安達練(Manipulator)。打ち込みは最小限にとどめ、生演奏の音の広がりと豊かさにスポットを当てた、フュージョン/シティポップの流れを感じる見事な演奏。素晴らしいバンドだ。

 若々しいアップビートのロック・チューン「夏からの手紙」では、akkoがいたずらっ子のような笑顔で手拍子、そしてジャンプ。「舞台芝居」は、マイラバには異色のラテン・ビートに乗せて、akkoとヒロコがシェイカーを振り振り。小林武史が実にエモーショナルなエレクトリック・ピアノのソロを決める。なんともグルーヴィーで豊かなひとときだが、圧巻は、そのあとに歌われたスロー・バラード「送る想い」。静謐なピアノ、キーボードの伴奏のみで、凛と背筋を伸ばし、一個の楽器のように素直な音色で歌うakkoの声は、今が2016年なのか1995年なのか、忘れさせるほどに軽やかに時を超える。「ターミナル」は、なめらかなようで実は非常にクセのある、小林武史独特の上下するメロディラインを、akkoの歌は水が流れるようにさらりとたどる。ラスト・チューン「re:evergreen」は、アルバムの全体を、そして20年前の『evergreen』から始まった旅路を、生命力あふれるビートと躍動するメロディ、誠実なメッセージで象徴する曲。〈その時が来たよ、新しい世界への〉というフレーズがまぶしい。evergreen=時を超えてみずみずしく、という言葉を、過去のノスタルジーから解放し、現在からもっと先の未来へ、力いっぱい投げ上げる曲。歌い終わり、笑顔で大きく手を振るakko。言葉はなくとも、歌に込めた思いは伝わる。

akko
小林武史

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