ボビー・ギレスピーが語り尽くす、プライマル・スクリームのエネルギーの背景 「冒険に満ちた人生を送りたい」

プライマル・スクリームのエネルギーの源泉

「時代のカオスを変えて、美しい芸術作品にしたい」

ーーところで今回はスカイ、ハイム、キャッツ・アイズのレイチェル・ゼフィラとゲスト陣に女性が多く、彼女たちの声や感性が重要なポイントになっている局面があります。女性たちを起用した狙いは何でしょう?

ボビー:純粋にプロダクション的な選択だったよ。「Trippin’On Your Love」や「100% or Nothing」は僕の声だけだと足りないというか、サビのところにもっと声が欲しかったんだ。それでハイム姉妹に声をかけた。彼女たちがファンタスティックなシンガーだってことは分かっていたからね。ゴスペル・スタイルで歌うんだ。とてもセクシーでとてもファンキーで、しかも声にリアルなパーソナリティが現れている。聴けば、彼女たちだってすぐ分かるんだ。ユニークで傑出したものにしたかった。それでハイム姉妹に声をかけたんだ。

ーーとても厚みのある声ですよね。

ボビー:そう、とてもパワフルでファンキーだよ。ユダヤ系アメリカ人の白人の女の子たちが、黒人の女の子みたいな歌い方をする。あれは凄いよ。ゴスペル出身かは分からないけど、それっぽい感じの歌い方だよね。とにかく素晴らしいミュージシャンだよ。天然の才能があるね。目の前で歌ってもらったけど、最高だったよ。グラストンベリーでは一緒にやったしね。

Primal Scream - It's Alright, It's Ok - Glastonbury 2013

ーーご自分の声と、スカイやハイム姉妹の声とのコンビネーションはいかがですか。

ボビー:きれいなコンビネーションになったと思う。このアルバムに極めてスペシャルなものをもたらしてくれているね。この子たちが僕たちと共演したいと思ってくれたなんて光栄だよ。スカイとハイム姉妹とレイチェルには一生感謝する。レイチェル・ゼフィラも「Golden Rope」と「Private Wars」で歌ってくれたんだ。

ーーそれから本作のタイトルには、混沌とした、不安定なこの時代をポジティヴに向けようとする意識があるのかな、と感じました。

ボビー:たしかにそれはあるね。時代のカオスを変えて、美しい芸術作品にしたいという気持ちがあったから。それを武器として、時代のカオスと闘うという感じかな。人々にインスピレーションを与えて気分を上げて、強さや希望をもたらしたいね。エネルギーになるものを。

ーー曲を作る時は、そういう政治的な懸念というのは頭にありますか。

ボビー:そう、そうだね。プライマル・スクリームは間違いなくそうだ。僕たちはアンチ資本主義だからね。「Golden Rope」、あと「Autumn in Paradise」もそういう曲なんだ。

ーーアルバムの最後の2曲ですね。さて、ボビーもここまでいろいろなことを乗り越えてきたと思いますけど、ご自身の人生をどんなふうに思っていますか? 今、50代前半でしたよね。

ボビー:まだ始まったばかりのような気がするよ。やっと自分を見つけ始めたというのかな。僕たちはどんどんいい状態になっているような気がする。

――まだ始まったばかり? じゃあアルバムを出すたびに生まれ変わっているような感じなのでしょうか。

ボビー:そんな感じだね。いい言い方だなぁ。自分でもとても若い気がするよ。ヴァン・モリソンも言っていたけどね、”to be born again”って。ほら、「Astral Weeks」って歌があるだろう? ♪To be born again~♪(と歌う) ……それが僕さ、ベイビー!(笑)

Van Morrison - Astral Weeks / I Believe I've Transcended (live at the Hollywood Bowl, 2008)

ーー出すたびに生まれ変わっているということは、歳を取った気分になる必要もないかも知れませんね。

ボビー:ないねぇ。歳取った気分は全然しないよ。

ーーと言いつつ、歳を重ねながらロックンロールをやり続けるのには大変なことも多いと思いますけど、その気持ちはどうですか?

ボビー:確かに大変ではあるよ。特に2000年代初頭は、妻と出会って、家庭を持ったからね。僕にとっては大変な時期だったよ。ツアーではファッキンでクレイジーなロックンロール・ガイだったからね。家にはベイビーと妻がいるのにさ。例えばバンドで12日間ツアーで日本に行くとするだろう? そうしたら12日間ぶっ通しで起きてるんだ。あ、数時間は寝るかも知れないけど、それほどハイパーだったんだよ。家では真面目でまともな家庭人だったけどね。そのバランスをうまく取れるようになるには数年かかった。今は、クレイジーなのはステージの上だけだよ! クレイジーなロックンロール・ライフスタイルはもうやっていないんだ。アーティストとして、ステージの上ではクレイジーになるけど、その後自分を破滅させるようなことはもうしていない。それまではとても自滅的な男だったんだけどね。ステージ上は、アーティストとしてハイエナジーなパフォーマンスを見せる。でもステージを下りたら、自分を殺すことになるようなことはしないんだ。

ーーご家族のためにも?

ボビー:そう、そう。

ーーファンのためでもありますよね。あなたが破滅する姿は誰も見たくないわけですから。

ボビー:全くそうだよ。ファンがあっての自分たちだからね。『MORE LIGHT』も『CHAOSMOSIS』も、ほんとにクールなアルバムができたよ。

ーーそうやってオンとオフのバランスを取れるようになったことが、最近の作品の素晴らしさに繋がっているということですか?

ボビー:そう、その通りだよ。(きっぱり)それまで僕の人生はとてもカオスに満ちていた。極端すぎて、自分で自分をものすごくアンハッピーにしていたんだ。今はずっとハッピーだよ。

ーー曲の中でのエクスタシーとダークさのバランスもさることながら、あなた自身がよりハッピーになって、よりバランスの取れた生活を送れるようになったことが、このアルバムからは伝わってくるのかも知れませんね。だって、聴いた後の感触がポジティヴなんですよ。

ボビー:良かった。僕自身も、インスピレーションを与えられるアルバムになったと思っているんだ。

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