兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第9回

レキシの「INAHO」はなぜ600円なのか? 「ミュージシャンとグッズ」の奥深い世界

 最近、アリーナクラスのライブだと、なんつうんだあれ、音に合わせて光の色が変わるLEDライトみたいなのを手首にはめるやつ。あれを入場時に渡されて、ライブ中、曲に合わせてアリーナやスタンドがピカピカ光って、終わって帰る時に返却する、という演出、ありますよね。それと同じように、ショーの演出の一部として考えたものであって、売っておカネを儲けるためのグッズという認識はハナからしていない、ということだ、どうやら。

 いや、でもなあ……もったいないなあ……と思ったが、そう考えると、椎名林檎とユニコーンの旗がやたら安いのもうなずける。要はグッズであってグッズではないのだ、あれ。

 そういえば、女王蜂のライブでは、ジュリ扇が定番になっている。「バブル」という、「ジュリアナトーキョー」のリフを生サンプルしたダンス・チューンや、タイトルがそのまま「デスコ」という曲などで、みんなジュリ扇を振りまくる。MCでアヴちゃんは「グッズで作ってないし、持って来いと言ったこともないのに、いつの間にか定着した。女王蜂のライブがある日は近所のドンキホーテでジュリ扇が品薄になるし、amazonで女王蜂のCDを探すと、『この商品を見た後に買っているのは?』のところにジュリ扇が出る」というようなことを言っていた。

 だったらグッズで作ればいいのに。アヴちゃん自身もその曲になると、最前列のお客さんから借りて振ったりしているのに。と、僕は思っているのだが、作る気配がない。同じように、ミュージシャンにとっては、売って儲けるには抵抗のあるものなのかもしれない。

 あとひとつ。

 最初にレキシの「INAHO」のことを知った時、まっ先に思い出したのは、電気グルーヴだった。

 セカンドアルバム『UFO』のツアーの渋谷公会堂(1991年11月17日)。バンド編成でライブを行い、アンコールで当時石野卓球が懇意にしていた日出郎率いる新宿二丁目軍団が登場したこの日、電気グルーヴは帰路につくお客さん全員に、ワラを無料配布したのだった。藁です。本物です。「これ、いったいどうすれば……」と困り果てながら電車に乗ったのを憶えています。

 なお、2015年12月26日、リキッドルームで行われたイベント『石野卓球の地獄温泉JGK48 –ふみとしくんの-湯あたりお花畑–』では、当初「入場者全員に『かんゆドロップ』を配布」と告知されたが、それを配るのはまずいとかいうことになったらしく、「サザエのフタ」に変更になった。確かに入場時にいただきました。普段平気で捨てているものでも、こういうふうにもらうと捨てる気になれない、ということを学びました。今でも家にあります。

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。1991年に株式会社ロッキング・オンに入社、音楽雑誌などの編集やライティングに携わる。2015年4月に退社、フリーに。「リアルサウンド」「RO69」「ROCKIN’ON JAPAN」「SPA!」「CREA」などに寄稿中。9割のテキストを手がけたフラワーカンパニーズのヒストリーブック『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンライブにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。( http://www.rittor-music.co.jp/books/14313007.html

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