レジーのJ−POP鳥瞰図 第9回

さかいゆう、LUCKY TAPES、Suchmos...「シティ・ポップ」ブームの中で、同時多発的に生まれた新しい音楽

LUCKY TAPESとSuchmos、2016年の「街」の景色

 一部の音楽好きの間での合言葉だった「シティ・ポップ」という言葉も、ここ最近ではその界隈の外でも広く知られるようになってきた感がある。「四つ打ちロックの次はシティ・ポップだ」という類のやや雑な予測も見られるようになってきた。ただ、前述のとおり今や「シティ・ポップ」は音楽のジャンルというよりは「おしゃれ風な音楽の記号」になりつつあり、サウンドとしての特徴が明確にある「四つ打ちロック」と同列で語るのは不自然なように思える。

 音楽的なトレンドを考えるうえで「シティ・ポップ」という言葉を多用するのは筋が悪くなりつつあるが、その概念にAORやフュージョンという補助線を引くといくつかのアーティストが浮かび上がってくる。たとえばLUCKY TAPESの新曲「MOON」。マイケル・ジャクソン「Love Never Felt So Good」を結成のきっかけに挙げる彼らの楽曲はデビュー作『THE SHOW』の時点で完成度が高かったが、「MOON」ではキリンジや冨田ラボの作品を思わせる流麗なAOR感が強化されており(特に間奏やアウトロなど歌がないパートでの厚みを感じさせるアレンジが秀逸である)、さらなる新境地を感じさせる出来栄えとなっている。また、今年に入って新作『LOVE&VICE』を発表したSuchmosも、オーセンティックなソウルにとどまらずフュージョンやアシッドジャズといった要素をうまく消化(昇華)しながら彼ら流のダンスミュージックを鳴らしている。そしてここで触れたLUCKY TAPESやSuchmosから垣間見える音楽的な構成要素は、冒頭で紹介したさかいゆう『4YU』ともリンクするものでもある。

 「シティ・ポップ」というキーワードが重宝され、一種の「タグ」として機能する時代がいつまで続くかは全くわからない。ただ一つ言えるのは、共通するメンタリティ・音楽的志向を持つ作品が2016年の日本において「タグ」の有無にかかわらず同時多発的に生み出されているということである。情報の受け手のブロック化・クラスター化はこの先もますます進んでいきそうではあるが、願わくはさかいゆうとLUCKY TAPESやSuchmosが同時に聴かれるような、言い換えれば近しい方向性を示す中堅の実力派と若手の新鋭がフラットに並ぶような状況になればいいなと思う。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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