Mardelas・蛇石マリナ、及川樹京インタビュー

Mardelasが目指すヘヴィメタルの革新と、ジャンルの超越「関心のない子たちの耳にも届けたい」

「縁とタイミングが重なってできたバンド」

及川樹京(Gu)

ーー樹京さんはマリナさんから誘われたとき、どう思いましたか?

及川:私はちょうどSCREAMING SYMPHONYってバンドをやっていたんですけど、それまでちょっとブランクがあって。マリナと一緒にやっていたバンドを解散したときに、仕事として音楽をやることを諦めていたんです。でもSCREAMING SYMPHONYに入って、音楽に対してまた気持ちが沸き上がってきた頃なんでしょうね。「以前一緒にやってたようなことを復活させたい。今の実力ならもっとやれると思うんで、あのときにやりたかった曲を一緒にやりましょう」と誘いを受けて、迷わず「一緒にやりましょう」って答えました。

蛇石: アルバムの「Daybreak」と「Phantasia」がまさにその曲で。「Daybreak」という曲がなかったら、もしかしたらちょっと違う方向性になっていたかもしれないですね。この曲はいつか何かしらの形で世に出したいなという思いがずっとあって。なので、彼とベースのhibikiと3人でまず出したインディーズ・シングルが「Daybreak」と「Phantasia」なんです。

ーーそのhibikiさんや、後から正式加入したYumiさんもそうですけど、LIGHT BRINGERというバンドで活躍してきた方々と一緒にバンドをするというのも、すごく大きな出来事ですよね。

蛇石:そうですね。hibikiとは私が前にいたバンドで、彼のセッション・バンドと一度対バンしたことがあったんですよ。そこですごく仲良くなって、私がそういう決断を下して1人で新しいことを始めようと思ったときに「こういうことになったけど、もしよかったら何でもいいから助けてくれない?」と電話したら「いいよ」と言ってくれて。そのときはLIGHT BRINGERが活動休止することをまったく知らなかったんですけど、それで一緒にやってもらえることになったんです。それからドラムを探すときに、Mardelasの前身バンドで作ったサンプルを聴いていたhibikiが「ああいう曲に合うのは、やっぱりYumiさんだと思うよ?」と言ったので、まずはサポートで頼んでみようかって話になって、お願いしたのがきっかけです。で、いざスタジオに入って合わせてみたら、しっくりという言葉しか見つからないぐらいハマッて。何回かライブをやってから、自然な流れで加入が決まったんです。

ーーいろんな縁がつながっていったと。

蛇石:縁とタイミングですよね。自分が「脱退するなら今だ」と思ったタイミングもそうだし、樹京が音楽をまた真剣にやりたいと思ったタイミングもそうだし、そういうことがいろいろ重なってできたバンドなんだと思います。

「歌心がある音楽が好きっていう共通点でつながっている」

ーーそしてMardelasは2015年4月に1stアルバム『Mardelas I』でメジャー・デビューを果たします。このアルバムはいわゆるハード・ロック/ヘヴィ・メタルだけではなくて、もっと広い意味でロックやポップスにカテゴライズされるような楽曲も含まれた、非常にバラエティ豊かな内容です。とにかくメロディがキャッチーで耳に残りやすいし、そこに楽器隊のテクニカルな演奏が加わることで非常に聴き応えのある作品だと思いました。

蛇石:ありがとうございます。このアルバムを作るにあたって一番大きかったのは……レコーディング前にプリプロダクションをやるんですけど、みんなと「Mardelasってどんなバンドにしたらカッコいいんだろう?」って話をしていなかったのに、最初から共通のイメージができあがっていたんです。ここまで弾いたらメロディを壊してしまう、でもここにソロを入れたら起伏としてすごく効果的なんじゃないかとか、そのさじ加減が最初からみんなの中である程度共有できていたので、難なくアルバムを完成させられたんです。

及川:そのさじ加減が、アレンジする上では一番難しいところで。昔は弾きまくるアレンジを結構していて、あまり客観視できてなかったんです。でも今はその判断もやっとできるようになってきて。特にhibikiくんはプレイヤーとしてだけでなく、アレンジや作曲の才能もある人で、話していて意見が合うんです。「LIGHT BRINGERだったらもっとやってもいいけど、Mardelasはこういうのが合わない」って、すごく客観的にバンドを見てくれていて。ドラムのYumiさんもそうなんですけど、そういうところにバンドでやる醍醐味があると思うんです。

蛇石:Yumiさんもすごいフレーズに気を遣って考えてくるよね。

及川:ツアーの移動中に車の中で音楽を聴くとき、Yumiさんは意外と90年代のJ-POPを流すんですよ。結局みんな、歌心がある音楽が好きっていう共通点でつながっているんですね。

蛇石:そうだね。みんなの共通のルーツがメタルなのはたぶん誰が聴いてもわかると思うんですけど、ポップス的な目線で引き算が考えられる、そういう感性がすごく似てるんだろうなって。そしてMardelasというバンドを客観視できる目が4人全員にあるから、こういうバンドになったんだろうなって私は思います。

「『人の感情、情念、性』と『日常と非現実の融合』」

ーーさらに昨年12月にはシングル『千羽鶴 -Thousand Cranes-』もリリースされました。表題曲含め、新曲は「Mardelasらしさ」や「Mardelasとは?」という部分を追求することにこだわっているように感じました。

蛇石:「千羽鶴 -Thousand Cranes-」という曲はタイトルのとおり、川端康成の小説『千羽鶴』を題材にしてるんですけど、曲の世界観、特に作詞面はより深められたかなっていう手応えがありまして。私の中で作詞において永遠の二大テーマとして「人の感情、情念、性(さが)」と「日常と非現実の融合」というのがあるんですけど、『千羽鶴』を読んだときに登場人物の女性に情念をすごく感じて、ちょっと表現してみたいなと思って書いたのがこの曲なんです。

ーー1stアルバムのときから感じていたことなんですが、マリナさんの書く歌詞からは日本語というものに対する強いこだわりを感じるんです。

蛇石:ありがとうございます。曲を生かすも殺すも詞だと思っているので、確かに言葉の選び方にはものすごく気を遣っています。それに言葉にも音があるので、アクセントやイントネーションがピッタリはまらなかったら意味がない。言葉を書くことって基本的な知識さえあれば誰でも書けるじゃないですか。でもすごく奥が深いというか。意味的にはこれなんだけど言葉的にはこれじゃないとか、逆もしかりなんですけど、そういうことがあるんでパズルみたいですね。入り込んでは引いて見てを繰り返す、もっとも時間も身も削る作業です。人によっていろいろこだわりがあるとは思うんです。音がカッコ良ければいいっていう人もいるし、ストーリーが一番大事だっていう人もいるし、わかりやすくて誰にでも理解できる歌詞がいいっていう人もいる。でも私はそれぞれのいいところを取りたいんです。

ーー「千羽鶴 -Thousand Cranes-」は小説『千羽鶴』が題材になっていますが、作詞するときは映画や小説を題材にすることが多いんですか?

蛇石:わりと実体験が多かったりします。実体験であればあるほどいいと思っているので、極力自分の周りに起きたことを、言葉の選び方でちょっと非現実的にして。そこがさっき話した「日常と非日常の融合」ということなんです。不思議な言葉をつなげてるんだけど、どこかリアリティがある。そういう世界観が好きなので、どの曲にも基本的には実体験が3割は入ってます。だから歌に入り込めるというのもあるんですけど。もちろん本を読んだり映画を観たりしても「これは私の話じゃないけど、この人の気持ちがものすごくよくわかる」とか、そういうのって感情のひとつの経験だと思うので、それもひとつの実体験と見なして歌詞を書くこともあります。とはいえ、ステージ上で自分のことであるかのように歌うには題材選びも大事なので、テーマの選び方もステージングにとって重要なんですよ。

ーー実体験を書くことって、ときにつらくなりませんか?

蛇石:結構しんどいですよ。自分の汚い部分もさらけ出すわけだし。でもそれでこそ「人の感情、情念、性」の真実だと思うし、そういう部分をMardelasで表現したい。となると、自分の身を削るしかないんですよね(笑)。

ーーしかし音楽への向き合い方が凄まじいですね。

蛇石:hibikiからは頑固だって言われました(笑)。頑固というか、我が強いというか。

及川:(無言で頷く)

蛇石:あ、今「うん」って頷いた(笑)。

及川:気が強いんです。ステージでもそういう部分が出てるんじゃないですかね。負けないという強い気持ちが。

蛇石:気力ってすごく大事ですよね。名だたるアーティストのステージを観ていると、音だけじゃなくて気迫も伝わってくるし。たぶん人が感動するのって、そういう部分だと思うんですよね。もちろん音でも人を感動させられるけど、ライブでは五感すべてを使っているわけですから。だからそういう部分を引き出すためにどういう曲を書いたらいいのかなと、私は常に考えてるんです。

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