4thアルバム『4YU』インタビュー
さかいゆうが明かす“リスナーに届く音楽”の作り方「98%は焼き直し、残り2%にどう足跡を残すか」
「自分のことを“アーティスト”だとは言えない」
――そういう意味では、2枚合わせて聴くとちょうどいいかもしれないですね。『COVER COLLECTION』では、中野サンプラザでも披露された「よさこい鳴子踊り」が、洒落たソウルチューンに仕上がってて面白かったですね。
さかいゆう:これ、歌的にもよく録れたなあと思うんです。僕にとってはチャレンジングなことでした。
――「Doki Doki」などもそうだと思うのですが、さかいさんの曲はすごくポップで、多くの人を楽しませつつ、同時に音楽面で冒険していく面がありますね。
さかいゆう:最終的には、自分好みというか、自分が何回でも弾けるようにしているだけかもしれないです。でも、いろんな人としゃべっていると、そこを軸に作っている人ってあんまりいないんですよね。というのも、一般的に音楽を制作する上で、“モデルになる曲”を立てることが多くて。洋楽が多いんですけど、当然その曲が“先生”になるから、ミックスもそういうふうに仕上げるんです。エンジニアさんも、そうすれば音作りもマイキングも簡単に選べますから、楽なんですよね。でも僕は、“これ、自分の好きな感じだな”という感覚を頼りに全部やっていて。趣味みたいなものですけどね。
――確かにポピュラー音楽には、過去のモデルを継承するという面もありますね。そこに、どれだけオリジナルな色を付けるかという。
さかいゆう:そもそも98%はこれまでの音楽の焼き直しで、残り2%の部分にどうやって足跡を残せるかなんだ、ということに僕は気づいちゃったんですよ。だから、僕は自分のことを“アーティスト”だとは言えない。今回のアルバムを聴いて本当に思ったのは、やっぱり98%どころか、99%は自分が今まで聴いてきた音楽に影響をもらっていて。そのアルバムをカバーと一緒に聴く……というのは、すごく意味があると思うんです。これは、もう自分の“音楽の親”を紹介しているようなものですから。大事なのは、2016年の今、さかいゆうの体を通して、自分も喜び、できれば周りも喜ぶような音楽を表現することで。そう思っている時点で、自分は芸術家ではないなと思うんです。
――ある意味、ポップカルチャーとはそういうものでは?
さかいゆう:そうです。その“分かっちゃっているヤツ”の強さというのもやっぱりあって、その2パーセントを思いきり変なものにはできないんですよね。2%を大きく変えて、ぜんぜん違う印象になれば世の中の人は反応するけれど、僕は古い音楽も新しい音楽も好きだから。もっと言うと、本当に新しい音楽ってまだ生まれていない音楽だし、自分が好きなものを追求して、自分が思う今の要素を含めて作り上げたものが、最新の音楽になるんじゃないかと。最近の音楽を意識しても、それは最新の音楽ではない。そういうものを意識しないほうが、誰かが僕の音楽を見つけたときに、衝撃が大きいのかなと。だから、自分の趣味に徹する方がいいと思っています。
――面白いですね。さかいさんの中に98%のアーカイブがあるとして、それは常に更新されていくものだということですよね。
さかいゆう:もちろん。読書と一緒ですね。要するに、たくさん本を読む人もいるし、ちょっとしか読まない人もいる。ちょっとしか読まない人は、それだけのボキャブラリーのなかで会話をするわけじゃないですか。そして僕は、好きな音楽はたくさん聴くけれど、無理して色んなものを聴くタイプではなくて。だから、本で言えば偏った作品ばかり読んでいる、という感じ。でも、そっちの方が面白いと思うんです。本当に好きなものじゃないと、ちゃんと消化できないですしね。
――そういう意味では、今回のアルバムには今のさかいさんのモードが表れているということですね。それがちょっとファンキーな方向に向かっているのかな、と思いました。
さかいゆう:やっぱり読書に似ていて、その時期に読んだ本のボキャブラリーに影響される、みたいなことにすごく近いと思います。そこからどんな言葉が出てくるかはその人の性格とか感性次第なんですけど、哲学書ばかり読んでいたら、ちょっと説教くさい口調になるみたいな(笑)。そういう意味で、ここ2~3年はわりとジャズを聴いていた時期だったので、その影響が出ている部分はあるかもしれない。ハービー・ハンコックやマイルス・デイヴィス、最近の作品だったらジェラルド・クレイトンとかロバート・グラスパーも聴きますね。具体的にどこが影響されているのかは、ちょっと自分でもわからないですけど。