『farewell holiday!』インタビュー

DE DE MOUSEが音楽で表現する“ファンタジー”とは?「その奥にある毒がじわじわ染みこんでいく」

「自分なりのオールディーズ・ミュージックを作るという気持ち」

――たとえばですが、今作を出したあとに、この内容を電子音に置き換えたエレクトロニカ・アルバムを出すとかどうですか。

DE DE MOUSE :あ! それをCDに封入するダウンロードカードでやろうとしてるんですよ。月に一回、アルバムの曲を電子音に置き換えて、ファンが聴きやすい音にアレンジしたトラックを配信していくという。

――なるほど。逆にエレクトロニカ・アルバムを先に出して、それから今回のアルバムを出した方が、ファンの人もすんなり受け入れやすいとは思いませんでしたか。

DE DE MOUSE :僕自身が一刻も早く、このアルバムを出したかったんですよ。今出さないと、誰か似たようなことをやってしまうかもしれないという気持ちがすごくあって。そろそろEDMの波も落ち着いた感があって、次に何が来るのか、みんな様子を見てる最中だと思う。そこで、今回の自分がやったようなことを先にやられちゃったらいやだなと。なのでなんとなく生っぽい感じのサウンドにするんじゃなくて、徹底的に作り込んで圧倒的に行ききったようなものを作ることで、その後誰かが同じようなことをやっても、そういえばDE DE MOUSEが先にやってたよねって言われれば勝ちだなと思って。それでここ3年ぐらい、誰かが先にやっちゃうんじゃないか、早く作らなきゃって思ってたんです。

――周りの状況を気にしていないようで、そこはけっこう気にしたんですね(笑)。

DE DE MOUSE :そこはすごい気にしてましたね(笑)!

――でも『sky was dark』から今作までの間に、すごくいっぱいいろんなものを出してるじゃないですか。ミニ・アルバム、配信限定シングル、期間限定楽曲とか。

DE DE MOUSE :はいはい(笑)。

――これまでのDE DE MOUSEらしいエレクトロニカも多かったですね。あの一連の作品はご自分の中ではどういう位置づけですか。

DE DE MOUSE :あれは…それまでのDE DE MOUSEの活動の延長線上にある音ですね。『sky was dark』の次のステップとして出したものではないです。なので軽い気持ちでパッと作れるものだし、どちらかといえばファンの人たちに喜んでもらうために出したという。でも自分のやりたいことは『sky was dark』の、その先にあるものだったので、それを今回のフル・アルバムで表現したということですね。

――なるほど。

DE DE MOUSE :今回は周りの状況や意見やファンの欲求とかそういうのを全部無視して自分の作りたい音楽だけを作った。自分が見たい景色だけをそのまんま音にしたんですよ。でもそれはエゴだけでもない。自分がやっていきたいこと、自分が好きな音楽を少しずつファンに見せていかないと、ファンも成長しない。ファンの求めるものだけを提供していると、いずれ行き詰まってしまう。今の10代20代の体験を僕が彼らと同じ感覚で共有できるわけじゃないから、そこにすり寄っていっても、作るものがどこかズレていってしまうような気がするんです。年長のミュージシャンが最近の流行りの音楽を取り入れても、感覚が違うからすごくダサく感じることが多くて。それだったらゴーイング・マイ・ウエイで自分らしいことをやる方がかっこいいと思うし。

――それはわかります。

DE DE MOUSE :去年エイフェックス・ツインが久々にアルバムを出しましたけど、今風の音にすり寄るでもなく、すごくエイフェックスらしくて安心したんですよ。結局は自分の立ち位置で攻めていくしかない。だから今回はすごく攻めたアルバムだと思ってるんです。

――そう思います。DE DE MOUSEの本質を変えないで、果敢にチャレンジしたアルバムになっている。

DE DE MOUSE :ありがとうございます。僕も一本筋の通ったものは残してるつもりです。たとえばもっと現代音楽風なものだったり、ミニマルやドローンみたいなマニアックな方向に行きたいわけじゃなかったから。基本はファンタジックなもの、ノスタルジックなものっていう部分を絶対捨てないように。それが自分の根底にあるものですからね。

――そうですね。

DE DE MOUSE :今回は<音楽>をちゃんと作って、それを評価されたいという気持ちがあったから、ほんとに普遍的な楽器を使って作ったんです。生演奏のシミュレーションするなら、楽器の特性や演奏の仕方も知らなきゃいけない。僕は楽典とか苦手なので、ひたすら聞き込みました。今作を作る時に聴いたのはルロイ・アンダーソンを筆頭に軽音楽ですね。すごいシンプルなんだけど気が利いたギミックがたくさんあって、何より聴いていてワクワクする。ラウンジ/モンドとかイージー・リスニングのブームがあった時に多少取り上げられたぐらいで、ちゃんと評価されてないけど、聴きやすいしすごく音楽的だし。すごく衝撃があったし、聴けば聴くほどすごいと思った。そういう音を自分も作りたい。でも昔の軽音楽をただなぞるだけだったら、DE DE MOUSEがやる意味がない。自分なりのオールディーズ・ミュージックを作るという気持ちで今作を作りました。

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