『不謌思戯モノユカシー』インタビュー

sasakure.UKが明かす、創作プロセスとその核心「“次の世代に残る音”を選んで使っている」

 自身が考案したストーリーをもとに、作中の人物やエピソードをモチーフとした楽曲でアルバムを作り上げるという、独自の表現で話題を集めるサウンドテラー・sasakure.UKが、通算4枚目となる最新作『不謌思戯モノユカシー』をリリースした。本作は、異形の存在である「アヤカシ=(妖禍子)」と、人間の少年少女たちとの交流を描く昨年のミニアルバム『摩訶摩謌モノモノシー』にとっては続編にあたる内容。生身の歌声やVOCALOIDをフィーチャーした楽曲、インスト曲などが入り混じったハイブリッドなサウンドスケープが、物語の世界観とシンクロすることによって、他では味わえない音楽体験を聴き手にもたらすだろう。

 ゲームミュージックや男声合唱に影響を受けた、難解でありつつも耳に残るキャッチーな楽曲。そんな、摩訶不思議な作風は一体どのようにして培われたのだろうか? 新作の制作エピソードはもちろん、機材環境や曲作りのプロセスまで、彼の創作活動の核に迫った。(黒田隆憲)

「“ヒトではない存在”の魅力について考えた」

――sasakure.UKさんが、物語と音楽を結びつけた形で作品を発表するようになったのは、どのようなキッカケだったのでしょうか。

sasakure.UK:小さい頃はテレビゲームをよくやっていて、その影響で“ストーリーありきの音楽”に興味を持つようになったんです。頭の中に一つの印象的なシーンが思い浮かび、そこからストーリーを掘り下げつつ音楽を作ることが多いんですよ。今作『不謌思戯モノユカシー』は、人間と、人間ではない異形の存在「アヤカシ」との共存がテーマになっているのですが、まず頭に浮かんだのが、人間のお母さんとアヤカシのお父さんが、2人の間に生まれたハーフの男の子を抱えているというシーンだったんです。そこから生まれたモチーフが、本作収録の「ヤチヨノ子守唄」、「阡年と螺旋、散るものを」に発展していきました。

――人間と異形の存在の交流というプロットを思いついたのは、sasakure.UKさんがVOCALOIDを駆使していることも影響していますか?

sasakure.UK:間違いなく影響しています。VOCALOIDという“ヒトではない存在”が、世間からどう見られているのか。人によってはイビツなものに見えるかもしれないし、魅力的に見えるかもしれない。日本に昔から伝えられている畏怖的な存在「アヤカシ」も、怖いけど魅力的だったり、神秘的だったり。そういう、人ではないモノのバランスに、何かしら魅力の秘密が隠されているんじゃないかと思ったんですよね。

――改めて、sasakure.UKさんがVOCALOIDに出会ったきっかけを教えてください。

sasakure.UK:初めてVOCALOID曲をニコニコ動画に投稿したのは2007年の12月でした。それまではインスト曲を作っていて、「何か新しいことに挑戦したい」と思っていたときのタイミングでVOCALOIDに出会い、「これは面白い」と思って使い始めました。楽曲に対するユーザーのリアクションが、すぐに反映されるニコ動のシステムにも惹かれましたね。匿名性があり、業界の偉い人、有名なクリエーター、一般リスナーの境がなく並列でコメントを眺められるのも刺激的だなと。

――VOCALOIDの声質についてはどんな印象を持ちましたか。

sasakure.UK:非常に特徴的な声質ですが、例えばピッチの揺れ幅やビブラートの強弱など、調整次第でいくらでも自分の好きなニュアンスに寄せていけるところが気に入りましたね。敢えて機械っぽくしたり、ハーモニーでまろやかさを出したり。当然、それなりのテクニックが求められますが、慣れてくると自分なりのグルーヴも出せます。

 

――sasakure.UKさんが、音楽に目覚めたきっかけは?

sasakure.UK:僕が通っていた高校は男子校だったんですけど、そこで男声合唱を始めたのが大きいですね。それから同じ時期に、携帯電話の着メロ作りにもハマりました。限られた音色、音数を使って着メロを制作する機能があったのですが、それで自分の好きな曲を、片っぱしからコピーしていきました。着メロにするため自分でアレンジを加えたり、テンポを変えてみたり。それが今となっては、作曲の原点だったのかもしれないです。考えてみると、男声合唱も「男声」という限られた音域の中でハーモニーを作っているんですよね。

――今のsasakure.UKさんの曲作りにも影響していますか。

sasakure.UK:そう思います。最初に「物語」という枠組みを作ったり、設定を細かく絞り込んでからの方が、曲作りもしやすいんですよ。他にも、敢えて単音しか出せないモノフォニックシンセを使って、アルペジオで和音の広がりを出すとか、そういう工夫を今回のアルバムでもしています。

――好きな作曲家として、木下牧子や三善晃を挙げていますが、彼らのどんなところに影響を受けたのでしょうか?

sasakure.UK:男声合唱のときに、彼らの楽曲を題材にしていたんです。非常に特殊な和声であるのに加えて、楽曲にダイナミクスがあるんですよ。ダイナミクスというと、音を足すことばかり考えてしまいがちですが、聞かせたいところをより強く聞かせるためには、それ以外の部分を下げるという「抜き差し」が重要になってくるんです。

――いわゆる「引き算」の考え方ですね。

sasakure.UK:ええ。それと合唱の先生によく言われたのが、「大きい音よりも、例えばピアノのような繊細に動く音にこそ、気を配る」ということ。そのアドバイスは今でも頭の片隅に残っていて、「ここはもっと抜かなくちゃ」とか、「ここは小さい音だから使う音を慎重に選ぼう」とか、常に考えていますね。

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