レジーのJ−POP鳥瞰図 第7回

星野源と山口一郎ーー音楽シーンに風穴を開ける、それぞれのやり方

異なるルートで音楽業界に揺さぶりをかける

「星野さんが帰ってきたら、一緒に曲を書きたい」

2012年に星野源がくも膜下出血により休養を余儀なくされた際、山口一郎はこんなツイートでエールを送った(https://twitter.com/SAKANAICHIRO/status/282370656648179712)。この2人の良好な関係は、今や多くの人に知られるところとなっている(先日のサカナクションの武道館公演にも星野源から花が届けられていた)。彼らのユースト番組『サケノサカナ』が始まったのは2011年3月。その頃にはどちらかというと「若い音楽好きに人気のミュージシャン」というポジションだった星野源と山口一郎は、今やそれぞれが「音楽シーンのど真ん中で、新たな価値観を提示するアーティスト」となった。

 ともに既存の音楽業界に揺さぶりをかける存在でありながら、2人のアプローチは大きく異なる。強いメッセージをはっきり放って現状を変革しようとする山口に対して、星野は無邪気なふりをして従来の体制の懐に飛びこみつつ刺激的なアウトプットをさりげなく広めていく。世の中への具体的な対峙の仕方においても、ツイッターでダイレクトに問題提起をする山口とSNSから比較的距離をとっている星野の姿勢は非常に対照的に見える。

 物事の状況が大きく変わるときというのは、同じ思いを持った人たちが様々な方向から動き出すときである。星野源と山口一郎、音楽の中身も活動のスタンスも違うが、「世の中における音楽という娯楽の存在をより良いものにしたい」という想いは双方に共通するはず。「外と内」「柔と剛」といった趣のこの2人の両面作戦が、景気の悪い話の先行しがちな今の音楽シーンに風穴を開ける痛快な瞬間を楽しみに待ちたい。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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