特別企画2: ふくりゅうの『TM NETWORK 30th FINAL』徹底レビュー

なぜTM NETWORKは時代の先駆者となったのか? 「FINAL」作品を100倍楽しく観る方法

“MC”と“アンコール”が存在しないコンサート

 小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登による3人組ユニット、TM NETWORKのコンサートに“MC”と“アンコール”は存在しない。なぜなら、完璧なまでに計算されたSFをテーマとしたシアトリカル(演劇的)なショーだからだ。

 TM NETWORKといえばどんなイメージを思い浮かべるだろう? コアターゲットとなった世代は80年代〜90年代に学生だった30代前半〜40代後半。そして、その影響は子供世代へも継承されているという。代表曲は、アニメ『シティハンター』のエンディング「GET WILD」、宮沢りえ主演映画『ぼくらの七日間戦争』主題歌「SEVEN DAYS WAR」、アニメ映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の主題歌「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」などの歌い継がれる名曲たち。しかし、おそらくFANKS(TMファンの意)に聞けば、みな違う楽曲を好きな曲としてあげるだろう。それほどまでに実は隠れた名作が多いユニットなのだ。

 ジャンルでいえば百花繚乱だ。ニューロマンティック 〜 ディスコ 〜 ポップス 〜 ユーロビート 〜 ハウス 〜 ハードロック 〜 ラテン 〜 フォーク 〜 プログレッシヴ・ロック 〜 トランス 〜 EDMといった、時代を経て変化しつづけたサウンド感。人それぞれに見える“音風景”が異なるはずだ。

 TM NETWORKのサウンドを聴かず嫌いで“ピコピコ“や“打ち込み“とイメージし、毛嫌いしていた人もいたかもしれない。TKファミリーによる大ヒットの反動もあったことだろう。しかし、実はTM NETWORKは骨太なライブバンドな一面を持っている。メンバーは、70’sロック世代であり、エマーソン・レイク・アンド・パーマーやピンクフロイドなど、プログレッシヴ・ロックに大きな影響を受けている。本質をロックに置きながらも、時代に応じて様々なアウトプットを使い分け、記憶に残るメロディを奏でることで名曲を生み出してきたのがTM NETWORKなのだ。

TM NETWORK / LIVE Blu-ray / DVD「TM NETWORK 30th FINALトレーラー映像(1)」

●マーケティング論や文化論、ディティールへ迫ったアプローチ

 TM NETWORKのオフィシャル評論家、藤井徹貫氏に大きな影響を受けたリスナーも多い。アーティストの想いやヴィジョンを言語化する翻訳家であり専属スポークスマンのような存在だ。筆者もまた影響を受けたひとりだ。1994年、TMN終了への秘密を解説する目的でマーケティング論や文化論として迫った著書『TMN最後の嘘』(ソニー・マガジンズ)や、ツアー同行レポをミステリー風なフィクションを交え展開する名著『TMN EXPOストーリー(上下)』(ソニー・マガジンズ)など、音楽作品だけでなくキャラクター性のディテールを広げるアプローチが斬新だった。これら作品は、“ブランディングの構築”において、参考となるアイテムなのでTM NETWORKに興味がない方でもぜひ手に取ってみてほしい。TM NETWORKがいかに、他ではない方法論、道を開拓してきたかがわかるはずだ。

 90年代、TM NETWORK全盛期に“CI(コーポレート・アイデンティティ)”の概念をアーティスト活動に取り入れ、ネーミングとブランドをTMNへと“リニューアル”したマーケッター的センスを持つ小室哲哉。そう、いまや聴き馴染みのある“リニューアル”という言葉は1990年に小室哲哉がいちはやく世に発信したキーワードだった。しかし、これら大味なアクションは、楽曲を聴いて欲しいという音楽家としてピュアな願いのあらわれだったことは言うまでもない。2015年、“コンテンツマーケティング”がキーワードのひとつとして注目されているが、TM NETWORKは1984年から意識的に取り組んでいたのだ。“コンテンツマーケティング”とは、“有益で説得力のあるコンテンツを制作・配信することによって、ターゲットを引き寄せ、獲得し、エンゲージメントをつくり出すこと”にある。

 その最良の成果がTM NETWORK 30周プロジェクトだ。

TM NETWORK / LIVE Blu-ray / DVD「RHYTHM RED BEAT BLACK(from TM NETWORK 30th FINAL)」

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