アルバム『風の果てまで』リリースインタビュー

斉藤和義が語る、表舞台に立ち続ける理由 「ビートルズやストーンズが好きだから、売れてなきゃいけないって思う」

 

「職業作家の凄さを今は感じますよね」

――和義さんのヒット曲は、ドラマやCMが絡むことも多いですよね。数年前は「やぁ 無情」がアリナミンのCMでバーっと世の中に広まったり。当時、年末の音楽番組に出演されていたのを見たんですけど、めちゃくちゃ居心地悪そうだな、って思ったのを覚えていて。要するに、マスに出たいのか出たくないのか、どっちなのかなって。

斉藤:あぁ。うーん……。まぁプロモーションって感じですかね、テレビも。慣れないですけどね。でも、何だかんだで広がりやすいメディアだと思うので。うん、言葉はアレだけど、利用できるなら全然しようっていう感じですかね。

――ここまではオッケーだ、という自分なりのラインってありますか。たとえばいろんなタイアップがある中で、断ることもあるのか。

斉藤:あぁ、時にはあると思いますよ。こっちが何もわからないのは嫌ですし。ただ、いわゆるご指名で来た話で、そのお題が面白いなと思えたら、それはやってみようって気になりますかね。

――今回のアルバムでいえば「Endless」もそうですね。

斉藤:うん。これは“経年優化”っていうテーマがあったんですね。年を追うごとに良くなっていくもの。そのテーマは自分にとっては「あ、ギターの話だ」って思えるもので。ヴィンテージ・ギター好きとしてね。もともとこれ、いつか映画なり絵本なり何かにしたいなと思いながら、エッセイってほどじゃないけど、すごく長い詞を書いてたんですよ。大地に種が植えられて、それが育って木になって、その森には梟の長老がいたり、ハトが「隣の山で伐採が始まった」って教えにきたり、あといろんな動物も出てきて。で、最終的に木は切られて船に乗って運ばれて、それがテーブルになったり床になったり椅子になったり、かたや楽器になったりギターになったり。それが巡り巡って今自分のところに来ている……っていうストーリー。だから、このテーマにぴったりだなと思って、ギュッと縮めてこういう曲になりましたね。

――なるほど。テーマに合わせて無理やり頭をひねっているわけじゃないと。

斉藤:そこは、そんなに考えないですね。こう言うとアレだけど、ぶっちゃけその商品が売れようが売れまいがそんなに気にしないし(笑)。もちろん、それでお互いにいい効果があればもちろん一番いいと思います。ただ最終的には自分が気に入るかどうかですかね。きっかけにタイアップがあったとしても、そのCMはせいぜい3カ月間とかで終わるわけで、その後何十年も歌っていくのは自分だから。で、自分で自分にお題を出すとだいたい同じようなテーマになるんですけど、外から来るお題って自分では思いつかないものが多いので。これはちょっと挑戦だっていう気にもなるかな。

――いい刺激であり、いいチャンスであると。

斉藤:そうですね。いい意味で期待を裏切りたいところもあるし。「そんなお題じゃ書けない」って思っちゃったら、それで終わっちゃうし負けだよな、みたいな。自分の中からは出ないお題でも、挑戦してみたら、自分で「わお、こんなのも出た!」って思えるというか。

――面白い結果になったタイアップ曲って、どれになりますか。

斉藤:うーん……「ずっと好きだった」とかはそうですね。先にCMの絵コンテもあって、出演者も決まっていて。で、いくつかあるテーマの中に同窓会っていう言葉があって。同窓会って……俺、出たこともないし。

――ないですか(笑)。

斉藤:呼ばれたこともないです(笑)。だから、まず自分では同窓会をテーマに書こうとは思わないですよね。

――そういう曲が今では代表曲のひとつになっている。面白いです。

斉藤:そうですね。いわゆる職業作家、職業作詞家とか職業作曲家みたいな人たち、昔はどこか受け入れられないところもあったんですけど。でもやっぱりそういう人たちの凄さを今は感じますよね。たとえば阿久悠さん。「透明人間」の詞をよく読むと〈透明人間 あらわる あらわる/嘘をいっては困ります/あらわれないのが 透明人間です〉とか(笑)。何言ってんの? って感じだけど、それをピンクレディーのために書いたわけで。あと同時に阿久悠さんは、実は自分の中のすごく私的なことをそのまま書いて、それをたとえばジュリーに歌わせてたんじゃないか、とか。だから職業作家って呼ばれてる人たちにも(仕事の私情の)両方あって、それを面白おかしく書いたり、より届けやすくしたんだろうなと。それは物凄いことじゃないかって、40過ぎてからですかね、思うようになって。だから、タイアップ=譲ってるみたいなイメージは俺もずっとありましたけど、それとはまた全然別物だよなって、やってみてわかった感じですかね。

 

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