Silent Sirenの“硬派な音楽性”はどう確立したか 活動スタンスから紐解く
シンプルなサウンドを全体的にスッキリとしたミックスダウンとマスタリングで仕上げていることも特徴的である。低音と高音が強調された“ドンシャリ”サウンドや、音量ピークをギリギリまで追い込んだコンプレッション強めのザラついたサウンドの派手な音作りとは真逆のアプローチだ。図太いスネアドラムが司るドッシリとしたバンドサウンドに支えられ、歌がハッキリと前面に出たミックス。ある種、古き洋楽的なベクトルを向いているところが興味深い。これは圧縮音源などではなく、ちょっと良質なスピーカーやヘッドフォンでじっくり聴いてみることをお勧めする。すぅの透明感ある歌声から響く倍音や、シンバルの伸び切った残響まで、細部に渡り丁寧に仕上げられたサウンドを堪能できるはずである。
ライブに見るバンドらしさとエンタメ性
ライブに目を向けてみよう。技術を誇るようなバンドではないが「バンドが好き、楽しい」といった健気な心意気を感じる“説得力のある”演奏だ。特にリズム隊の放つグルーヴは特筆すべきだろう。ブレのない上半身、ひなんちゅの凛々しいドラミングが繰り出す、平静にして正鵠を射るかのごとく図太いスネアのショット。粒立ちの揃ったロールと間の取り方が絶妙なフィルは、楽曲の抑揚とアンサンブルの要として大きなフックになっている。あいにゃん(Ba./山内あいな)の楽曲とサウンドを支える役割としての安定感を持ちつつも、時折うねりをあげるメリハリを利かせたベース。そして、ベースが動けばドラムはシンプルに、ドラムが動けばベースはシンプルに、といった巧妙なリズムアンサンブルが練られていたりもする。
硬派なバンドの姿勢を見せながらも、決して斜に構えることはせず、可憐なヴィジュアルを活かし、アイドル的な部分を否定することもしない。そこのバランス感覚が絶妙だったりする。“青文字系”読モのメンバー内で唯一の“赤文字系”出身ながら、最もアイドル特性の高いゆかるん(Key./黒坂優香子)の煽動する“振り付け”や、テレ朝動画『サイサイてれび!~おちゃの娘サイサイ~』に付随するような「サイサイコーナー」と呼ばれるバラエティ要素をライブにブチ込んでくるのも、彼女たちならではのエンターテインメント性である。
「アイドル的な見方をする人もいるだろうし、バンドとして見てくれてない人もいるかも知れない。でもどんな形で見られていても、最終的に好きになってもらえればいいと思ってるんです」ーーゆかるん Silent Sirenアーティストブック『CHIRANAIHANA』(2015年)より
今の4人に迷いは微塵もない。いや、迷いなどは始めからなかったのだ。「根拠のない自信だけで、ここまでやってきた」と、すぅは武道館で語った。“根拠のない自信”ほど、頼もしく無敵なものはないだろう。
Silent Sirenというバンドの信念を貫きながら“自分たちにしか成し得ないモノを突き詰めていく姿”を見ていると、読モバンドだとか、アイドルバンドだとか、ロックバンドだとか、そんな上辺のカテゴライズが無意味なほど、バンドとして、アーティストとして、表現者としてのあるべき“かたち”が見えてくるのである。
■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログ/twitter