戦後サブカル史におけるポピュラー音楽ーー円堂都司昭が「終末」と「再生」をキーワードに紐解く

囲われた場所を拠点とする「世界観エンタメ」

―本書の後半では、SEKAI NO OWARIのファンタジー志向も取り上げていますね。それと、この本のテーマである「終末的な想像力」とはどうリンクするのでしょうか。

円堂:このバンドを知った当初、浜崎あゆみのデビュー時に近いものを感じました。インタビューや歌詞の一部で、表現の背景にトラウマがあるように感じさせつつ、ファッションやビデオ、ステージなどのビジュアル戦略では人形ハウス的な作りこみもある。初期の浜崎にもあった生々しさと人工性の二面性を、4人組のバンドが今の感性で展開している。シェアハウス云々というのも色々想像させますし、マスクをつけているDJ LOVEは途中で代替わりしたとか。実態がよくわからないのがかえって面白い。精神的にもろい面と強い面が同居したFUKASEのキャラクターも魅力的。

-バンド全体を表すキーワードとして、本書では「世界観エンタメ」という言葉を使ってます。個々の要素としては、戦争、正義、死生観のようなテーマを扱いながらも、パッケージとしては――。

円堂:クッションで囲ってあるような感覚ですかね。「世界観エンタメ」云々は、都留泰作『〈面白さ〉の研究 世界観エンタメはなぜブームを生むのか』の用語を応用させてもらったのですが、セカオワによくあてはまると思います。喩えてみると、「カリブの海賊」のようなディズニーランドのアトラクションは、途中に恐怖を掻き立てる場面がありつつ、安心できる空間に帰ってくるまでのストーリー仕立てになっている。「終末」的モチーフを「再生」のイメージでパッケージ化しているんです。セカオワは、音楽でその種のことをやっている。彼らが大成功したからといってセカオワ的な方法を選ぶバンドは、そう多くない。とはいえ、遡れば、ステージセットなどビジュアルを作り込んだテーマパーク的な「世界観エンタメ」の先輩としてユーミンがいる。

―なるほど。

円堂:傾向は違うけれど、YMOも中国の人民服風のコスチュームに始まり、ビジュアル、ステージセットを時期ごとにロシア、ドイツを意識したデザインなど一定のコンセプトで統一して、散開コンサートの時はちょっとファシズム風の演出をしていました。特定の世界観でパッケージする演出の系譜はなくはない。また、例えばアイドルだと、AKB48グループのように拠点を設けてそこから展開していく方法論がある。拠点がある点では、地下アイドルも同様ですね。そうした方法論と、シェアハウスでSEKAI NO OWARIが生活していることにはどこか共通性があるでしょう。「巨大空間のエンタテインメント」を作りつつ「小さい空間での生活」に価値を見出していることは、アイドルの居場所に対するファンからの見え方と、共通した部分があるかもしれないですね。世界を攻めるにしろ、自分を守るにしろ、囲われた場所を拠点とする「世界観エンタメ」は、都合がいい。

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