挫・人間の下川リオが語る、サブカルの屈折「素敵なお兄ちゃんは、僕のことなんか好きにならない」
「自分との戦いというのは、僕のテーマのひとつ」
――6曲目「十月の月」では、これまでにない実験的なアプローチをしていますね。
下川:「MOOSIC LAB」という、バンドと映画のコラボレーションみたいな企画のために書き下ろした曲なんです。『おばけ』という作品だったんですけど、その映画がすごくきれいな話で、映像もきれいで、そこに「うぎゃあ!」みたいな叫び声は合わないなと思って。それで打ち込みにトライしてみたんです。YMOとかもずっと好きだったので、チップチューンみたいな、ちょっと懐かしい感じの打ち込みサウンドを目指しました。
――振り幅がものすごいんですけど、次の「下川VS世間」も凄まじかったです。これはヒップホップといって良いのか……。下川さんが“世間”とラップバトルをするという斬新な楽曲です。
下川:以前は、ヒップホップはヤンキーのやるものだって思っていて、怖くて近寄れなかったんですけど、聴いてみたらすごくかっこいいことに気付いて、やってみることにしました。でも、誰も相手がいないので、じゃあ世間様とラップで戦ってやろうと。ギャルや業界人、僕の母親が出てきて、僕のことをディスるんですが、彼らの正体は結局、全部自分だったという曲ですね。自分との戦いというのは、僕のテーマのひとつなので、それをヒップホップにしてみたら、こんな変な曲になりました。自分で作っておいて、聴いたらちょっと悲しくなるという残念な一曲です(笑)。ギャルの下川ディスも、全部自分で書いていますからね。
――次の「もう四日もしてない」は、ストレートな楽曲で少し安心しましたが、やはりこじらせている印象を受けました。
下川:この曲はまさに僕の実体験の話なんですけど、好きだった女の子に彼氏ができた瞬間、辛くなってオナニーができなくなってしまったことがあるんです。それまでは毎日3回必ずオナニーしていたのに。その日は悲しさのあまりに学校を初めて早退して、家でスカッとオナニーでもして忘れちまえって、援助交際もののエロ動画を観たんですけど、その女子高生が僕の好きな子に見えて、ピタッと手が止まってしまって……。高校3年生の頃で無知だったので、もう一生死ぬまでオナニーできないかと思ってショックでした。まぁ、その後にスカトロのビデオ見て元気になりましたが(笑)。
――なるほど。違うベクトルに行って回復したと。次の「過呼吸です」も、非常に困難な恋愛の歌ですね。
下川:「君と会えると幸せだよ」みたいなことを歌う曲ってすごくたくさんあると思うんですけど、僕は好きな人と会うと過呼吸になって苦しいんですよね、いろんな意味で。だから会いたくないんです。でも、気持ちとしては「宇宙旅行にでも連れていってやるよ」みたいな感じで。好きだけど会うと過呼吸になるし、身体的に無理なんで……という歌ですね。
――どこにも連れて行けないじゃないですか。でも、たしかに好きな子が近くにいると具合が悪くなっちゃうのは、少しわかります。
下川:そう、僕の具合が悪くなって、そうすると彼女も気分を害して、「じゃあ私が帰ればいいんでしょ」みたいな。切ないですよね。
――ある意味、すごく純情だと思います。次の「今までお世話になりました」は?
下川:これも恋愛の曲なんですけど、『めぞん一刻』を読んで書いたんですよ。『めぞん一刻』って、五代さんと管理人さんと三鷹さんの三角関係と思いきや、五代君と音無さんと、その死んでしまった元夫の三角関係が同時に描かれているなと思って。死んでしまった人との恋愛って解決しようがないから、切ないんですけど、僕は現実の女性との恋愛がないぶん、そちらに共感できる感じもあるんです。
――下川さんのソングライターとしての繊細な部分が感じられる良曲でした。「ロンググッドバイ」も別れをテーマにした曲ですね。
下川:そうですね。スタジオに古いリズムマシーンがあったので、それを使いたいと思って。それにアコースティックなサウンドを加えたくて、僕がヴァイオリンを弾いてみたんですよね(笑)。個人的に、弾けない楽器を弾いている人がすごく好きで。アート・リンゼイは弾けているのか、弾けていないのかわからないですけど、ああいう演奏。それでやってみたら、なんか女の人がめそめそ泣いているみたいな音が録れて、妙な怖さが出たと思います。
――後半はメランコリックな流れが続いたと思ったら、次の「下川最強伝説」で再びテンションが急上昇していますね。
下川:僕は躁鬱病なんですよね。僕の大好きな毛皮のマリーズの曲で、「ビューティフル」という曲があって、その歌い出しが「私の人生複雑骨折 ドラマ型統合失調症」という歌詞なんですけど、“ドラマ型統合失調症”は自分に対してヒロイックな感覚を持っているんです。その気持ちがすごくアッパーに向かったのが、この曲で。好きな子に彼氏がいることが発覚しまして、どうしたらいいんだと思って絶望している時に、なぜか急にアッパーな自分が現れて、「いや、でもそれって最高じゃない? 生きているって素晴らしくない? 宇宙ってすごくデカくない?」みたいなことを思い始めて、「すごい、俺って最強なんじゃないか」と思って、そのままの勢いを詰め込んで作りました。
――これはすごいパワーがあると思います。
下川:初めてポジティブな曲を作って、もう無差別に感謝してみたりとか、J-POPでよく言われるような「羽ばたきたい」とか言ってみたりとか。書いているときは「俺は正気だぞ!」って思っていたけれど、いま読むと誇大妄想が行き過ぎていますね。
――でも、バンドとしての本領を発揮をした曲だと思います。それで、最後の「お兄ちゃんだぁいすき」でカタルシスに向かうという。
下川:そうなんです、カタルシスなんです! 「下川最強伝説」で僕は人間を超越するんですね。人間の域を脱して、善悪から解き放たれるんです。つまり僕の魂のステージが上がって、超人になった結果、僕は美少女になったという話なんです。
――……とりあえず、そのまま書いておきますね。続けてください。
下川:そこで美少女の僕がどんな悩みを持っているかというと、やっぱり美少女なわけですから、恋愛のことで悩んでいるんですね。でも、中身は僕だから、やっぱり自分のことを好きな人を好きにはなれないはずなんです。となると、やっぱり叶わない恋愛をしているはずだと。そこで出てきたのが「お兄ちゃん」だったということなんですよ。その素敵なお兄ちゃんは、僕のことなんか好きにならないですよ、きっと。
――せっかく美少女に生まれ変わったのに、やはりダメだと。
下川:でも、僕は美少女になれたわけだから、それだけでいいです。自分で言っておきながら、一体何を言っているんだろうという気にもなりますが、ともかく美少女になりたいという願望が実を結んで終わるので、ハッピーなアルバムにはなったかなと。
――とにかく解脱したような感覚はありますね。
下川:ありがとうございます。歌入れの時も、気持ち的には美少女になりきっていたので、後から聴くとすごく気持ち悪いんですよね。自分を美少女だと信じているおっさんの歌みたいな、最低の楽曲になっているので、ぜひ聴いていただきたいです。そんな音源、なかなかないですから。
(取材・文=松田広宣)
■作品情報
挫・人間 2nd Album『テレポート・ミュージック』
発売:8月26日
価格:¥2,500(本体+税)
<収録曲>
1.念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ
2.セルアウト禅問答
3.土曜日の俺はちょっと違う(Memory Ver.)
4.オー!チャイナ!
5.可愛い転校生に告白されて付き合おうと思ったら彼女はなんと狐娘だったので人間のぼくが幸せについて本気出して考えてみた
6.十月の月
7.下川 VS 世間
8.もう四日もしてない
9.過呼吸です。
10.今までお世話になりました
11.ロンググッドバイ
12.下川最強伝説
13.お兄ちゃんだぁいすき
*タワーレコード 初回オリジナル特典:未発表ライヴ映像(DVD-R、1曲収録)+ポスター
挫・人間「テレポート・ミュージック」をタワーレコード全店(タワーオンラインを含む)購入した方には先着で未発表ライブ映像(DVD-R 1曲収録&ポスター)をプレゼント。特典は無くなり次第終了。
■ライブ情報
インストアLIVE(ミニLIVE &日本一キモいチェキ撮影会)
8/27(土)タワーレコード渋谷店4Fイベントスペース 20:30 START
*観覧自由
対象店舗(タワーレコード渋谷店、新宿店、池袋店、秋葉原店、横浜ビブレ店)にて、8/26(水)発売『テレポート・ミュージック』を購入した方に、先着で『日本一キモいチェキ撮影会』参加券を配布。 イベント当日、『日本一キモいチェキ撮影会』参加券をお持ちいただいた方は、ミニライブ終了後に開催される日本一キモいチェキ撮影会に参加可能。
問合せ:タワーレコード渋谷店 03-3496-3661
ワンマンLIVE
『あなたの心にテレポート~アルバムの曲全部やるまで帰れま10~』
場所:新宿レッドクロス
開場開演:18:00 OPEN / 18:30 START
チケット:前売り¥2,300 / 当日¥2,800(ドリンク代別) *ローソンチケットのみでの前売り発売 Lコード:78774
問い合わせ:新宿レッドクロス:03-3202-5320
『2nd Album「テレポート・ミュージック」発売記念TOUR』
10月25日(日)名古屋、池下UP SET
11月7日(土)岡山CRAZY MAMA 2nd ROOM
11月8日(日)福岡Queblick
■関連リンク
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