『Music Factory Tokyo』スペシャルインタビュー

松隈ケンタ×木之下慶行が明かす“コンペ必勝法” 「イントロはエゴを抑え、とにかく短くするのが大事」

 

「一聴するだけでその手抜きってハッキリ分かる」(松隈)

――レコーディングエンジニアという職業にピンポイントで憧れた理由は?

松隈:エンジニアというわけではないですが、亀田誠治さんですね。椎名林檎さんの音源を聞いたときに、良い意味で決してきれいではないのに、突き抜けているミックスを聴いて、音自体にものすごく魅力を感じ「もっと勉強したい」と思いました。そして、会社勤めをしながらこっそり東京のスタジオにメールを送っていたら、22~23歳のとき、某大手スタジオから呼び出されて。当時は仕事もしていたので、何とか合間を縫って通っていたら、そこで「すぐに働くことはできる?」って訊かれたんです。でも、それはその時働いていた会社に筋が通らないのでお断りさせていただきました。アシスタントエンジニアの応募って、だいたい25歳くらいまでなので、そこまではバンドでプロを目指して、ダメだったらエンジニアになろうと決意したんです。で、ちゃんと25歳でメジャーデビューが決まった。

木之下:僕は作曲・編曲などの仕事を貰っていたんですけど、食べていけなくて、着ボイスを録る仕事や、カラオケのMIDIを打つ案件をこなしたりしていました。その後、FENCE OF DEFENSEの西村麻聡さんと知り合って、彼のもとでまたJ-POPやゲーム音楽を作ったりしているうちに、「変なプライドは捨てよう」と思えるようになり、コンペファイターとしての忍耐の日々が続きました。それが24~25歳くらいですね。

松隈:僕は25歳でメジャーデビューしたものの、全然売れず……。2~3年でバンドは解散し、当時所属していた事務所が作家のマネジメントもしていたので、スタッフに「バンドがダメでも音楽で食べていきたい」と相談したら、まずは曲を沢山作れと言われましたね。

 

――コンペで戦う時期は、大抵の作家に訪れる試練の時期ですよね。2人はそれを勝ち抜いたからここにいるのだと思いますが、そのために行っていた工夫などがあれば教えてください。

木之下:決まる・決まらないは関係なく、とにかくたくさん作ることと、出したことを忘れること。作っていくと、自分の癖や色が分かってくるので、勝負はそこからだと思うんです。

松隈:具体的なところだと、周りから「良いね」って言われた音は何回でも何十回でも使えば良いし、イントロはとにかく短くするのが大事。最初ってとにかくカッコいいイントロを付けようとするし、そこにミュージシャンのエゴが出るから長くなりがちなんですけど、コンペだと何百曲と集まってくるから、それを聴いてくれる余裕はないです。実際にその光景を若手のときに見ていたので、自分はそうならないように、あえてイントロを短くしていました。

木之下:僕がこだわっているのは、とにかくやりきること。昔は「数撃てば当たる」という気持ちでいたんですが、さっきも言ったように、自分の色が見えてきたら、狙いを定めて打つようにする。クライアントからの発注書って、そのまま鵜呑みにするとみんなと同じものが出来てしまうので、まずはじっくり「この人はどういうことを求めているんだろう」と考える。それが決まったらなるべく手は動かしつつ、じっくり作り込みます。どんなに時間がなくても、手は尽くして「この曲の雰囲気はこれでちゃんと伝わる」という段階までは粘るようにしていますね。あと、アレンジはしっかりやった方がいいと思います。少なくともメロディーだけ、コードだけで提出するより、採用される率は間違いなく上がると思います。

松隈:そこに性格が出ますよね。「どうせ後で誰かがアレンジをやるだろう」とか、「後で生ドラムを入れるから、リズムは大味の打ちこみでいいや」と思いがちなんですよ。でも、それをもらった側からすると、一聴するだけでその手抜きってハッキリ分かるんです。ミックスでも「ノイズが乗りっぱなしだけど、エンジニアが消してくれるだろう」という音はハッキリ分かるし、フェードアウトも雑なものがあったりする。そこを1番きっちりやるべきだと、僕は思うんですけどね。

――もう今は「エンジニアの仕事もとってしまおう」というくらいの気概が必要なのでしょうか。

松隈:そうでしょうね。歌詞も<ラララ~>とかじゃなくて、ちゃんと世界観を入れる。クライアントが世界観を定義することは多いから、そのニーズに合ったものは必ず書くし、そこに「どうせ作詞家が書き直すだろう」という手抜きは入れてはいけない。

木之下:僕、歌詞が苦手なんですよね。もちろん、しっかり世界観を踏まえて仮歌詞を入れますけど。

松隈:それは僕も同じですよ。仮歌詞も一発で通るというより、曲が通ってから「この歌詞をブラッシュアップしてください」と言われて微調整したりします。

後編【「作家として目指すなら最低限パッケージングに耐えうるものを」松隈ケンタと木之下慶行が語るプロデューサー目線の作家音楽(後編)】へ続く

(取材・文=中村拓海/写真=竹内洋平)

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