西廣智一が振り返る、波瀾万丈のキャリア
華原朋美はどう苦難を乗り越え、“充実期”を迎えたか ベストアルバムから辿る20年の軌跡
そして2004年、華原は通算23枚目のシングル『あなたがいれば』をリリース。韓流ナンバーを日本語カバーしたこの曲は、今でも彼女のライブで披露される機会の多い人気曲だ。デビュー10周年を目前に、華原はシンガーとしての高みを目指そうとしている。そんな前向きさが強く感じられる歌声が、これからもっといろんな場所で耳にできることになる……そう信じていた。しかし、中島みゆきが作詞・作曲を手がけた2006年の26thシングル『あのさよならにさよならを』を最後に新作は途絶え、2007年から数年にわたり彼女はシーンから姿を消すことになる。
その数年間はゴシップ的な要素で世間を騒がせたこともあったが、私が見たかったのはそんな華原朋美ではない。第一線で堂々とした歌声を響かせるシンガーの華原朋美なのだ。だからこそ、2012年末に歌手活動を再開させたときは「ついに!」と胸躍らせたものだ。そして2013年、華原は舞台「レ・ミゼラブル」の劇中曲を日本語カバーした27thシングル『夢やぶれて -I DREAMED A DREAM-』で、数年のブランクを感じさせない艶やかな歌声を世間に届けたのだ。
彼女の歌声からはもはや迷いは感じられない。デビューからの10数年に体験したすべてが、この歌に凝縮されていると言っても過言ではない。それは『ALL TIME SELECTION BEST』にも収録されている「I'm proud (2013 Orchestra Ver.)」からも強く感じられることだろう。そしていろんなものを乗り越えた今の彼女だからこそ歌えるglobeのカバー「DEPARTURES」や、華原と同時代を生き抜いてきたGLAYのカバー「HOWEVER」、そして約16年ぶりに小室が楽曲提供した「はじまりのうたが聴こえる」からも、「歌手・華原朋美」「人間・華原朋美」の成長が端的に表れている。
2枚のベストアルバムは、新曲で締めくくられる。未来を見つめ“これから”を歌うスローバラード「Long way to go」(『ALL TIME SINGLES BEST』収録)は20年の集大成であると同時に、この先の歌手人生に対する決意表明となる1曲だ。また、同じく前向きな歌詞が今の彼女にピッタリなダンスチューン「never give up!!」(『ALL TIME SELECTION BEST』収録)は、モダンな要素を取り入れつつも軸になっているのは彼女の伸びやかな歌。ダンサブルな「keep yourself alive」でデビューした華原が20年後、「never give up!!」でこうした成長ぶりを見せるなんて、当時はファンも、そして本人も考えてもみなかっただろう。そういった意味では「never give up!!」は彼女の原点回帰であり、「絶対に諦めない!」という意思の表れでもある。「Long way to go」も「never give up!!」も過去と未来を鏡合わせにしつつ20年の歴史をつなぐ、今の彼女にとって重要な役割を果たす楽曲になることだろう。
幾多の苦難を乗り越えて第一線に復帰した人間は、負け知らずの人間よりも間違いなく強い。歌手としても、そして女性としてもこれから円熟期を迎えるであろう華原朋美が、今後どういう歌を聴かせてくれるのか。そして音楽を通じて何を表現してくれるのか。彼女の本当の勝負は、これから始まるのかもしれない。
■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。