1stアルバム『BIG MUSIC』インタビュー

浜端ヨウヘイが語る、“大きな音楽”が生まれる場所「旅を続けるなかで新しいテーマに出会う」

 

 シンガーソングライターの浜端ヨウヘイが、1stアルバム『BIG MUSIC』を6月10日にリリースした。プロデューサーに江川ゲンタを迎えた同作は、ラグタイムやロカビリー、フォークといったルーツ・ミュージックから、ビートルズ的なエッセンスまで消化し、浜端らしい大らかな歌声と豊かなメロディで奏でた、まさに“BIG MUSIC”と呼ぶにふさわしい作品だ。地元の京都・鴨川から宮古島、果てはボルネオ島の原生林まで、各地を旅した経験を軸に紡ぎ出したという楽曲たちには、どんな思いが込められているのか。そして本作の制作を通じて見えた、シンガーソングライター・浜端ヨウヘイの音楽的展望とは。『BIG MUSIC』にまつわる話を、たっぷりと語ってもらった。

「ずっと丼ものが出続けるコースみたいなアルバムになった」

ーーこれまでシングルで浜端さんの音楽を聴いてきましたが、アルバムとなると印象が違ってきて、サウンド全体に奥行きや幅広さを感じることができました。今作をどんなコンセプトで制作したのか、改めて教えてください。

浜端:シングルの時から、1枚を通して聞いた際に、僕の音楽が全体的に伝えられれば……というコンセプトでやってきたんですけど、それをもっと凝縮して、より具体的に伝わるようにしたのが今回のアルバムです。ひたすら自分の音楽を詰め込んだ、ずっと丼ものが出続けるコースみたいな勢いですね(笑)。結果として、キャラクターが強い曲ばかりになりました。とはいっても、ライブではお馴染みのずっと歌い続けてきた曲が半分くらい、書き下ろした曲が半分くらいで、そういう意味ではバランスよくまとまったと思います。これまでずっとやってきたことの到達点であり、これからの出発点でもあるというイメージですね。最初はもうちょっとさらっと聞ける曲があってもいいかなと思ったんですが、結果としてベストアルバムを聞いているようなボリューム感で、聴きごたえのあるものに仕上がって良かったと思っています。

ーー全曲がメインディッシュみたいなアルバムであると。もともと200曲近いストックがあるということでしたが、そこからどういうプロセスで曲を選んだのですか。

浜端:ライブでやってきた曲を中心に組み立てていったので、スムーズに決まりました。曲順もライブに沿う感じで、冒頭から徐々に盛り上がって、そこでいったんトーンを落として、もう一度盛り上がりの曲があって、そしてフィナーレに流れ込んでいくという構成になっています。だから必然的に1枚を通して聞くと、ライブをひとつ見終わったくらいの満足感になっていると思います。

ーー今回のアルバムには、ブルース的な曲もあれば50年代のロックンロールっぽい曲もあるし、アコースティックな曲もあります。改めて浜端さんの音楽ルーツについて聞かせてください。

浜端:こういう風に並べると、僕は本当になんでもありなんやなという感じです。「BELONG-BELONG」とか「スーパーマン」、あとは「限りなく空」、「ノラリクラリ」、「大男のブルース」なんかは、ラグタイムやロカビリー、あるいはフォークといった音楽と通じていますし、一方で「群青ホライズン」とか「結-yui-」みたいな王道J-POPもあって、“俺にはこういうのもあるんだ”という発見になりました。でも、やっぱり根幹として、僕の真ん中にはビートルズがあると思います。

ーー「MUSIC!!」はまさにそんな曲ですね。

浜端:「MUSIC!!」は、ビートルズへの思いを全部出したという感覚がありますね。ビートルズの楽曲って、どんなシチュエーションにも必ず合うと思っていて、大きいことを言うようですが、そんな風に人々の暮らしとか生活の中に馴染む音楽が作れたらいいなと思っています。

「旅先で見たものを書くのは、僕にとって揺るぎないもの」

浜端ヨウヘイ / MUSIC!!

ーー「MUSIC!!」は、浜端さんのメロディメーカーとしての良さが出ている曲だと思いました。この曲はいつ頃、作ったのでしょう。

浜端:2、3年くらい前です。会社を辞めて音楽だけでやっていくことを決心した時期で、セカンドシングルの「無責任」を書くちょっと前くらいですね。1曲目の「Starting over」もそうなんですけど、僕はこれまで“命”とか“音楽”とか“愛”みたいな、大きいテーマから逃げてきたところがあるんです。そういうのを歌うのは、ちょっと気恥ずかしくて。でも、その時期は「そんなこと言うとる場合じゃないやろ」と思って、頑張って書いたんですが、やはりやりきれる自信がなくて、なかなかライブでは出来なかった。今は頼りになる先輩やバンドメンバーがいて、ようやく形にすることができたという感じです。

ーー浜端さんの中でようやく、機が熟したわけですね。「これから自分は音楽をやっていくんだ」という宣言文のような曲でもあります。

浜端:そうですね、本当にそう思って書いた歌だったので。ボルネオで書いた「Starting over」も、僕にとっては“命”という大きなものをテーマにした新しいアプローチの曲でした。

ーー「Starting over」はどんなシチュエーションで書いたのですか。

浜端:環境問題をレポートするという招待でボルネオ島に行ったんですけど、その滞在期間中に作りました。ボルネオ島のダナンバレーという原生林の中を、夜明け前から歩き始めて、そこから二時間、ガタガタの道をバスで走って、また日が沈むまで歩いて……。日付が変わるころに寝たら、次の日はまた早朝から起きるっていうスケジュールの中で、だんだんみんな口数が減っていくんですよ。最後はみんな白目をむきながらバスに揺られている感じで(笑)。でも、夜明け前には素晴らしい光景にも出会えました。ジャングルにはキャノピーウォークっていう、10数メートルもある木の真ん中にかかった吊り橋があって、その吊り橋をわたっている最中に、夜がどんどん明けていくんですね。夜中にはずっと虫の声が大きくて、星があって、それは美しい夜なんですけど、だんだんと日が昇るに連れて、空が白んで、虫の声が小さくなっていって、今度は鳥とか動物たちの声に変わっていくんです。何かが変わっていく瞬間の光景で、これをちゃんと歌にできたら、それは“命”というものに目を向けることになるじゃないかと感じました。これまで書けなかったテーマに挑戦するきっかけになる、すごく有意義な体験で、やっぱり「旅せなあかんな」と思いましたね。

ーー浜端さんの楽曲は、訪れた土地ごとに作られるものが多いですね。

浜端:旅先とかで見たものを、写真のように切り取って書くというのは、僕にとって揺ぎないものだと思うので、旅をしながら歌を書いて、それを聞いてもらう旅をして、その旅の中でまた歌を書く、ということを続けていきたいと思っています。「旅」は大きなキーワードで、きっと僕の足が動かなくなるまではずっと旅を続けていくんでしょうね。

ーー実際の体験を通して、何かを生み出すタイプなのかもしれませんね。作ってから時間が経っている曲もあると思いますが、それぞれに思い出はありますか?

浜端:あります。どこで書いたとか、全部覚えていますよ。たとえば「BELONG-BELONG」は僕が今、暮らしている近所の焼き鳥屋さんで書いたんです。上京してきてそれほど用事もない時に、日が暮れるまで部屋にいて、夜になったら焼き鳥屋に行って、ごはんを食べさせてもらうという生活が毎日続いていて。ママから「あんたそろそろうちの歌書きなさいよ」って言われて書いた曲です(笑)。「鴨川」もそんな感じで、地元の街を出歩いた時にできた歌ですね。7曲目の「群青ホライズン」は、宮崎県の雲海酒造さんのタイアップで書き下ろしたんですけど、日向灘っていう宮崎の海をテーマにした歌です。実際に山さんの前座で宮崎に連れて行ってもらった時に、朝ひとりでジョギングして海の前に立って、その時のことを思い出したりしながら書きました。僕、海や空の曲がすごく好きなんですよ。

ーーたしかに海や空がいくつか出てきますね。空はその時々の心境によって、映すものも違うでしょうし。

浜端:そうですね。ほんまモヤモヤしてる時に見る空は濁って映ったりもするし、逆にどうしようもないほど落ち込みきった時は、すごく救われるような色にも見える。いろいろな空を思い出しますね。

ーーアルバムを作り終えた今は、空を見上げてどんな風に思いますか?

浜端:空を飛びたいですね(笑)。前は下を向いて歩いてたんですけど、今はちゃんと見上げられた気がするので。手を広げて高く飛んでいけるようなイメージです。

ーー浜端さんは開放的というか、おおらかな感じがするから、「無責任」のような繊細な曲を書いていた時代ってあまり想像がつかないんですが、それはだんだんと乗り越えてきたものでしょうか。

浜端:乗り越えたというよりは、その時代の上に立っているという感じです。今になって、すべてが糧になっているのではと思います。当時はきっと、ひどい顔をしていたと思いますよ(笑)。

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