新作『♂×♀×ポーカーゲーム/消えちゃうパープルバタフライ』インタビュー

ベッド・インが明かす、キャラクターを演じ切る覚悟「ちゃんと芯があれば、もっと自由でいい」

 

「これぞ「ボディコン・ロック」だと(笑)」(益子寺)

――トリッキーな見た目とは裏腹に、楽曲はムーディーな歌謡曲とディスコサウンドが組み合わさったクオリティの高いものですが、2人の音楽的な原点はどこにありますか?

中尊寺:私はもともと昭和歌謡が好きで、高校生くらいからすごく聴いています。わかりやすいところで(山口)百恵ちゃんとか、(工藤)静香とか、(中森)明菜ちゃんだとか、本田美奈子さんとか、畑中葉子さん…あとは阿木燿子さんの詩の世界観や宇崎竜童さんの歌謡曲でもしっかりリフのあるロック観だったりが好きで。「バブル顔だね!」って言われるようになった大学生頃からは、意識的にそこから一歩踏み入れたものまで聴くようになって、セクシーアイドルまで幅広く聴くようになりました。特に安全地帯やバービーボーイズには影響を受けて。当時から切なくてキャッチーなものが好きなのかも知れません。

――先ほどバンド時代の音楽を「ブラック・サバス」的なものと言っていましたが、そのあたりはどこから影響を受けたのでしょう。

中尊寺:難しいですけど、初期のXかな…いや、一番最初は筋肉少女帯ですかね…そこから人間椅子や有頂天、ザ・スターリン、頭脳警察、あぶらだこなど掘り下げる形で日本のパンクを聴きました。あとは、三上寛、友川かずき、山崎ハコと佐井好子。「例のK」の前身バンド「中学生棺桶」にもかなり影響を受けました。昭和歌謡は母親の影響があると思うんですけど、すごく響くし覚えやすい。やっぱり日本人なので、日本語じゃないとグッと来ないというか…昭和歌謡は人生のなかでずっと聴き続けるんだろうなと思います。

益子寺:私が音楽に目覚めたのは、幼少期に親の影響で聴いた松任谷由実さんがきっかけだったと思います。色んな作品を聴いてましたが、小学生の頃、特に「この世界観、たまらない!」と衝撃を受けて狂ったように繰り返し聴いた記憶があるのは「真夏の世の夢」でしたね。あの官能的で妖艶な雰囲気。あとはシャカタクがお気に入りで踊っている映像が残ってたり…(笑)なのでおチビちゃんの頃からアーバンな雰囲気は好きだったのかなと。

 歌うことも好きだったんですけど、実は小学生の時に音痴コンプレックスを持ってしまい、人前で歌うことが極端に怖くなってしまって。それでも音楽は好きだったので、高校生の時にギター担当でバンドを組みました。で、途中で「デス声なら音程関係ないから、人前でも歌える!」ということに気付き(笑)。PANTERAやTHE MAD CAPSULE MARKETS、YELLOW MACHINEGUN、S.O.D.とかをコピーして、メタル、ハードコアにどっぷりでしたね。そこから、今でも好きなTOOL、Meshuggah、Opethとかプログレ要素の強い音楽も聴いたり。一方、カラオケでは山口百恵さん、中森明菜さん、大黒摩季さんなど女性の歌謡曲・J-POPを密かに練習して。大学で環境が変わったタイミングで「妖精達」のメンバーと出会ってバンドを組み、人前で歌う決心がついて今に至りますね。

――プレイヤー・パフォーマーとして影響を受けた方もいるのでしょうか。

中尊寺:ザ・ランナウェイズのリタ・フォードは、体型的に似ているので意識してます(笑)。あと、人間椅子の和嶋慎治さんを見てSGを買いました。学生時代からライブ活動をしているので周りのハードコアなおじ様やお姐さま方には無意識に影響受けていると思います。

益子寺:音楽じゃないんですけど、私、プロレスが本当に好きで。ライブやパフォーマンスのスタイルに関しては、プロレスに出会わなければ今の自分の姿は存在しないというくらい、プロレスから与えられた影響は大きいです。例えばヒールの選手って、入場からマイクパフォーマンス、試合のスタイル、人によっては試合以外の場でもヒールをやり切るじゃないですか。

――エンターテインメントを演じきる、という感じですか?

益子寺:そうですね。入場の演出から、アングル、ブックに至っても、パフォーマンスのヒントがたくさん転がっていて。試合を観戦したり昔のVHSを集めたり。あとは、プロレスラーの皆さんが体を張ってリングに立っていらっしゃる姿や生き様にもロマンと刹那的なものを感じ、純粋にかっこよくて憧れているんです。私もステージに立つ時は死ぬ気で挑むぞ!って、いつも刺激と闘魂を頂いてます。

――話を聞いていると、2人とも昭和歌謡っぽい歌詞を意識している部分もあるのかなと思いました。新曲はそれぞれが1曲ずつ作詞を手掛けていますが、「♂×♀×ポーカーゲーム」はかおりさんが担当していますね。どういう詞を意識して書きましたか。

益子寺:曲を最初に聞いたときに、強くてタカビーだけど、どこか憂いを帯びているようなナオン像のイメージが浮かんで。火遊びとして誘惑した相手を転がしているつもりが、いつの間にか自分がのめり込んでいた…という葛藤を描きました。踊れる曲ということもあり舞台はディスコのダンスホール。その駆け引きを80~90年代ならではのカタカナ英語を多用して描こうと思い、言葉を選びました。サビの「女体標識~イルミネーション~」や「イミテーション」から、あまり意味のない「Burning,Shake do it 」みたいなものまで(笑)。

中尊寺:私、この歌詞を最初に見て「絶対売れる!」って爆笑しました(笑)

益子寺:ストーリー性や心情を描きつつ、遊び心も取り入れて。「妖精達」のときは女の情念的な部分を、しっかり自分の内側にある感情・言葉を引き出して綴っているんですが、今回のベッド・インの曲ではひたすら歌いながら書きました。突然<スペードのキングは貴方~♪>なんて歌い出してはメモってを繰り返しました(笑)。

――普段から歌に乗せて書いていくのでしょうか?

益子寺:いえ、普段はもともと書き溜めておいた歌詞や散文を曲に合わせて選んで、膨らませていくんですが、この曲は言葉の聞こえや語呂などを重視して考えたほうがいいなと思ったので、カラオケにこもって歌いながら考えていました。とにかく、聴いてくれた人が歌って踊れるように、わかりやすくキャッチーな感じにしたかったんです。

――<大磯シーサイド>みたいにワンワードでバブル感が出るものもありますね(笑)。一方、まいさんが作詞を担当した「消えちゃうパープルバタフライ」は、少しアーバンで、大人しめなダンストラックです。

中尊寺:最初に聴いたときは、WinkやBabeや長山洋子さんのような“洋楽を日本風にリメイクしている雰囲気”を感じたんです。ずっとビートは鳴り続けていて、踊れるけど切ない感じですよね。私の一番好きな感情であるその「せつなさ」をわかりやすく出せたらと自分の実体験である不倫話をベースにしました。昭和歌謡といえば、叶わぬ恋!届かぬ想い!一度書いてみたかったんです、そういうの(笑)。

――「♂×♀×ポーカーゲーム」と比べて、湿っぽい歌詞なのはそういう理由なんですね。

中尊寺:湿ってるのは歌詞だけじゃないんですけどね…セキメ~ン///あと、タイトルの「バタフライ」は、百恵ちゃんが「愛の嵐」という曲を夜ヒットで歌った時、首元に紫色のバタフライのタトゥーを入れていて、それが元ネタです。彼女はそれを隠しながら歌うんですけど、それってキスマークの暗喩で、ジェラシーを表現しているように見えたので“熱っぽい気持ちと冷静な気持ちをどっちも持っている女の人”という歌詞の登場人物と共通する部分があるなと。それから、紫色って赤と青を混ぜた色じゃないですか、ふたつの気持ちが入り混じっているという意味でも「パープル」という単語は入れたかったんです。でも、あまり昭和歌謡により過ぎないように、時代背景とかも気にしつつ<テレホンカード>や<レンタルビデオ>というフレーズも盛り込んでいます。

――あとは、今回アゲハスプリングスの監修が入ったことで、2人の持っているロックテイストは残しつつ、かなりパキッとした音質になりました。実際に曲を受け取った時にどう感じましたか。

中尊寺:今までは自分たちや自分たちのバンド周りのメンバーと曲を作っていたので、こういったダンス・サウンドはなかなか生まれず……。

益子寺:今回の2曲がダンスナンバーになったのは、そういう理由もあって。ベッド・インは80年末~90年初頭やバブルをテーマにしているので、ユーロビートやディスコっぽい、お立ち台でジュリ扇を振れるような曲も作りたかったんですけど、自分たちはバンド畑でずっと育ってきたから、どうしてもバンドサウンドになっちゃう。アナログ人間だから打ち込みとかもわからない(笑)。なので、そういう曲を作るには、“マル金パパたち”の手をお借りしないと難しいなと思っていました。最初こそ多少の不安はありましたが、実際に曲を聴いたときに、バンド・サウンドと歌謡曲、ダンスビートがすごくきれいに融合されているものだと感じたので、これぞ「ボディコン・ロック」だと(笑)。

中尊寺:自分たちもやっぱり、ちょっとでもロック・サウンドがないと落ち着かないというか、気持ちが追いつかないところがあるんですけど、これはすごくうまくハマりました。

――「ボディコン・ロック」。いいですね。2人の真骨頂であるライブでは、ロック調の楽曲がメインになってくると思うのですが、そこでどのように今回の2曲を機能させたいですか?

益子寺:今回はナニより「♂×♀×ポーカーゲーム」で相方のまいがギターを弾いているのが大きな違いなので、ようやくウチらのロック姐ちゃんの本領発揮!って感じでドヤ顔できる感じですネ。2曲とも色が違いますし、さらにバンド形式とユニット形式ではステージングも全然ちがった形になると思うので、違いを楽しんで貰えたらマンモスうれPです♪ ダンスの振付けは今回、二丁ハロのミキティ本物さんにお願いしたのですが、相当面白いダンスになっているので期待してて下さい…!

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