『ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事』を囲む鼎談(後編)

名ドラマー、ジェフ・ポーカロの功績(後編)「小田和正や竹内まりやとの仕事もすごい」

今回の鼎談を行なったのは、小原氏の仕事場であるリスニング・ルーム。本書の執筆もこの部屋で行なったという。

「“ジェフ・ポーカロの真似をしなさい”とは、ちょっと言いにくい」(山村)

――ジェフが活躍した時代を知らない人にとっては、当時の存在感の大きさをつかみきれないところもあります。みなさんが、その時代に見てきたジェフの影響力についてもうかがいたいのですが?

山村:さっき僕はガッドとかの方が好きだったと言いましたけど、ジェフの教則ビデオとか、隠し撮りされたスタジオの映像とか、そういうものが出たときには、仲間同士で「お前持ってるか?」とか「もう見たか?」とか言い合ってましたね。それで持ってる奴の家に行って、みんなでずっと見るみたいな。ジェフが教則ビデオで“ドン!パンッ!”と叩いているところを見たときには、みんなでのけぞって、“何ですか、これは!?”ってなりましたよね。リズム&ドラム・マガジンの創刊第1号の表紙もジェフ・ポーカロだったんですけど、ある意味納得でした。ジェフを“すごい!”と言葉にするにもいろんな視点があって、ゴースト・ノートなどテクニックがすごいとか、タイム・キープやタッチもありますよね。その点、ガッドとかはその“すごさ”っていうのが見えやすいと感じてました。まずどうやって叩いているのかわかりませんでしたから。ジェフは、どうやって叩いているかは想像しやすいんですけど、何でこんなふうに(気持ち良く)なるのかわからない。その謎解きの材料が、映像があったり、来日公演だったり、インタビュー記事であったりして、そういうものにみんな食いついていったのは、よく覚えています。

小原:今の音楽ファンの音楽の聴き方って、僕らの世代とちょっと違う気がするんですよね。僕らの場合、「これガッドが叩いてるよ」、「じゃあ、買ってみよう」とか、「あそこでマーカス・ミラーがとんでもないプレイをしてるよ」とかいうので買ったり聴いたりしたんです。中学生、高校生のときって、そういうアルバムを誰かが買うと、みんなそいつの家に聴きに行くわけですよ。どのアルバムに誰が参加しているとか、ポンポン言える人なんて普通でした。クロスオーヴァーが出始めた頃で、日本では渡辺香津美が出て来ていたりしていた、YMOのちょっと前くらいの時期ですね。ドラムで言えば、やっぱりガッドとハーヴィーの人気が圧倒的でした。だからレコードを買うきっかけが“あのアーティストの新譜が出た!”というより、“誰が演奏しているから”という人の方が多かったかな。そういうことをするのは、ある意味僕らの世代がピークなのかもしれないですが。どうですか?

村山:僕としてはやっぱり音楽をやってましたから、そういう聴き方をしてましたけどね。みんながみんなレコードを買えるわけではないので、買った人のところに行って聴いたり、カセット・テープにダビングしてもらって聴くっていうスタイルでした。いちいち音楽をどこかに聴きに行く、あるいはレコードを買ってステレオで聴くという、今とはまったく違うミュージック・スタイルでしたね。(ジェフを追いかけるようになったのは)TOTOはもともと好きだったんですけど、やっぱり1983年の『TOTO Ⅳ〜聖なる剣』で来日したときの日本武道館で見たときの衝撃ですね。天井桟敷みたいなところで見ていたので、俯瞰するようにステージが見えたんです。ドラム・セットも見えるし、ステージの後ろまで見えちゃうようなところでした。当時は例のラック(※7)を組み始めた頃で、とにかく叩いている姿がカッコいいなと。もちろん、演奏も素晴らしいし、演奏している姿もカッコいい。うん、“カッコいい”というところから入っちゃった、というのはありますね。

(※7)ラック・システムによるドラムのセッティングは、ジェフの発案によるものとされている。

小原:同じ形のメガネを買おうとは思わなかったんですか?

村山:当時、僕はメガネをしてないですもん(笑)。

小原:いや、何だかそういうのって、例えば誰か俳優を好きになると、服を真似したり、髪型を真似したりとか、通じるような気がしたんですよね。僕は拳法をやりもしないけど、ブルース・リーみたいな髪型にしようとか思いましたから。

山村:それを言うなら、ドラムをやっている人の中では、膝が上がるまで椅子を低くして、ジェフみたいにしていることはありましたよ。

小原:それって結構叩きにくいんですよね?

山村:まあ、(椅子が低過ぎると)だんだん腰に負荷がかかるっていうんで、ドラマーにとって負担の少ない、一番良い椅子の高さを考える人が出始めたりもしましたね。そうすると、僕なんかはドラム講師をしているので、“ジェフ・ポーカロの真似をしなさい”とは、ちょっと言いにくいんですよ。音楽的には吸収しまくらないといけないんですけど。

小原:あと、ジェフが活躍した時代って、いろんな技術が発展した時期と重なっているんですよね。オーディオもレコーディングもそうだし、メディアの技術もそう。

山村:楽器もですよね。シンセもいわゆるデジタルのものになって、ドラムもシモンズ(※8)が出てきたり。ドラム・セットもすごく変わった時期だし、ドラムの奏法だってジェフ・ポーカロ、スティーヴ・ガッド、ハーヴィー・メイソンとかの登場でどんどん変わって、いろいろな技巧が出てきた時代ですよね。ただ、例えば(TOTOの)「ロザーナ」のリズムは、ハーフタイム・シャッフルって言いますけど、今の時代、その言葉だけが浮いちゃってるところがあって。そういうジェフの知識にしても、ちょっと再定義しないといけないなとは思いました。

(※8)80年代に一世を風靡したシモンズ社のエレクトロニック・ドラム。

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