フェンダーはなぜ日本法人を設立したのか? 山野楽器との契約終了への懸念と期待
「まず心配なのは、品質の管理です。一般的にアメリカからギターを輸入する際は大型船を使用するのですが、その航海中に、たとえば100本のギターがあったら、そのうち30本は製品として駄目になってしまうこともあります。それをしっかりと検品して、フェンダーのブランドを守ってきたのが山野楽器で、そこには50年を越えるノウハウがありました。山野楽器とのパートナーシップを解消したフェンダーが、その品質管理をそのまま引き継ぐことができるのかは未知数ですね。また、前述した国内の楽器店との摩擦も懸念されます。たとえばフェンダーが、特約店販売契約や廉価なコピーモデルを販売する楽器店には製品を卸さない、といった施策を取った場合、様々なモデルを扱い、顧客に選択の自由を提供している楽器店などは反発するでしょう。フェンダーのギターはもはやスタンダードともいえる形で、似たような形の製品は巷に溢れているので、それを一切排除するのは楽器店にとっても損失となるはずです。実際、2006年に山野楽器との代理店契約を終了したギブソンは、品質管理や楽器店との摩擦などの問題もあり、あまり見かけなくなってしまいました。有名な楽器店でもギブソンを扱っていない場合が多いのも現状です。フェンダーもまた、ギブソンと同じ轍を踏む可能性はあるでしょう」
しかしながら、フェンダーの新たな歩みには期待も大きいという。
「フェンダーの創設者であるレオ・フェンダーはもともと技術者で、自らギターを弾くことができないこともあってか、『楽器は音楽を演奏するための道具である』という質実剛健な思想を持っていました。手工品の価値よりも実用性、ドライバー1本でバラバラにできるのがフェンダーのギターです。ネックですら、壊れたら取り換えればよい、という極めて合理的な発想のもとにモノ作りをしていたのです。それは一見するとドライな考え方に思えますが、だからこそフェンダーのギターは革新的でしたし、アメリカ工業製品の象徴ともいえる楽器になり得たのです。今回の施策もまたドライではありますが、そこから生まれる革新性もあるんじゃないかと、個人的には期待していますね。80年代の再興時にフェンダーが掲げたのは『我々のライバルは他ギターメーカーではない、Nintendoだ』でした。そういった広い視野を持つ会社なんです」
現在、フェンダーミュージック株式会社のホームページでは、商品紹介だけではなく、LUNA SEAのINORANやOKAMOTO’Sのハマ・オカモトといった契約ミュージシャンのプロフィール、音楽ニュースなども確認することができる。フェンダーの日本法人は今後、どんなビジネスを展開していくのだろうか。
(文=松下博夫)