さやわか『Billboard Japan Hot 100』インタビュー
ビルボードジャパンが「複合チャート」を作る意味とは? 担当ディレクターに狙いを聞く
「30年後に見て納得できるランキングを残していきたい」
――ではそうした中で、たとえばインターネットのストリーミングなどは、ラジオなどに比肩するくらい、あるいはCD販売に比しても重要な意味を持つようになるとお考えでしょうか?
礒崎:はい。ストリーミングに限らず、CDを購入する以外の、音楽との接触を重視していますね。レンタルしてる人、ダウンロードしてる人、動画を見てる人が具体的にこれだけいるというデータがある。それだけ音楽に接触しているのが明らかであれば、これらのデータは混ぜていくべきではないだろうかという発想でランキングを作っています。
――やはり昨今言われるように、CDを買っている人だけでは計れないけれども、しかし音楽に触れている人がずいぶんいっぱいいるということですね。
礒崎:そうですね。昨年のデータとして、僕らの毎年やってる年間ランキングと、オリコンの年間ランキング、レコチョク、iTunes、それからカラオケのJOYSOUND、DAM、歌詞表示サービスの歌ネット、TSUTAYAのレンタルなどのランキングを全部並べてみたんですよ。そして各ランキングで共通している曲を色分けしてみたいんですが、去年の曲よりも、むしろ一昨年にリリースされた2曲が共通して入っていたりするんです。AKB48の『恋するフォーチュンクッキー』とSEKAI NO OWARI『RPG』は、2年前の曲なんですが、ずっとランキングに入り続けている。そして去年の曲で言えば、西野カナとか、アナ雪の『Let It Go』とかがちゃんと上に来ている。
――面白いですね。そうして見ると、順位の上下がありながらも、わりと納得できる名前の並ぶランキングになっています。しかし、オリコンだけが如実に違うミュージシャン名が並ぶ形になっている(笑)。結局、AKBさんとか、EXILEさんとか、あとジャニーズ系とかもそうですけど、彼らがやってることというのは、いいか悪いかはともかくとして、とりわけオリコンのチャートで上位に行く方法なわけですから、その結果としてランキングに違いが出るのは、ある意味、納得できます。
礒崎:そうですね。さっき言ったとおり、日本の文化としては購買のチャートが重視されているわけですが、だからこそ我々が複合チャートを作りたいと思っているわけです。しかしもちろんパッケージセールスも反映させるべきなので、やっぱり嵐やAKBは結果としては上にくるようにはなっています。僕らがパッケージセールスをあえて除外して、iTunesやレコチョクの数字だけを重視したランキングを発表すれば、もしかすると、よりマーケティングとしては正確になるのかもしれないですけど、それはそれで公平性を欠くなと思うんですね。だから今のやり方では、オリコンさんの1位2位あたりと、僕らの1位2位は似たようなものになっています。それに、オリコンさんは販売のチャートについては非常に誠実なやり方をなさっているんです。だからオリコンさんの出す推定売上枚数というのも、各レコード会社に言わせれば、かなり近い数値なわけですよ。だから決して、オリコンさんのセールスランキングに信憑性がないわけではない。
――では、たとえば先ほどおっしゃった「ザ・ベストテン」のリクエストのように、ハガキを一人でいっぱい送って上位を目指すような投票行動についてはどう思いますか? 最近はCDの複数枚購入などもセールスランキングに影響されるようになっていると思いますが。
礒崎:僕らのランキングでも、複数枚購入した結果は反映されてしまいます。それから僕らはTwitterでアーティスト名と楽曲名が含まれた投稿数を集計していますが、たとえばそこにはBOTが自動投稿したものも含まれています。しかし、こちらは計測するとそんなに大きい数値ではなかったんですよね。1万くらいにしかならないので、正直、無視してもいいんじゃないかという方針でやっています。しかし、ユーザーが意識してアーティスト名と楽曲名をさかんに投稿する場合もあるんですよ。リクエストのハガキと一緒ですね。しかしテレビやラジオ局にハガキを送るのと違うのは、Twitterの場合はその投稿が人目に触れることで一定のプロモーション効果があるんですよね。だからこれも僕たちが集計することで、その効果を実感して、さらにTwitterでのプロモーションが盛んになり、結果として、チャートが宣伝力を持つ時代に戻っていけたら面白いのかなあというように思います。
――言い換えると、今のチャートはかつてほど宣伝力としては機能していない?
礒崎:今のセールスランキングだとシングルの購買数はあまり減っていませんが、アルバムのほうは減少傾向にあるんです。どういうことかというと、つまりシングルのヒット曲というのが、買っている人はいたとしても、世の中全体にはあまり共感されなくなってきたということだと思うんですよ。だから最終的には、そのシングルの収録されたアルバムを買う人が減っていく。そういう推測が成り立つと思います。シングルがマーケットの半数近くをカバーしていた時代だったらセールスランキングにも説得力があったと思いますし、それを反映させた「ザ・ベストテン」のランキングにもリスナーは共感したと思います。だけど、今はだんだん「これ、どんな曲だっけ?」みたいな作品が増えている。それは僕らが年をとったからではなくて、シングルのセールスランキングの説得力が落ちたからではないだろうか、と思うんです。だからこそ、共感性の高いチャートを作りたいと思うんです。
――実際、ビルボードジャパンとしての手応えはいかがなものでしょうか?
礒崎:僕らが手応えとして感じたのが昨年の「Billboard JAPAN Music Awards2014」で、1位・西野カナという結果を発表したんです。嵐でもないしAKBでもないし、アナ雪でもないんだけど大丈夫かな、みたいな思いはありました。だけどユーザーの方々や、まあ業界の方々のリアクションを見ると「納得性が高い、なるほどと思いました」という声が多かったです。西野カナの好きな人だけでなく、たとえばジャニーズのファンの方にも「なるほど」と言ってもらえた。複合ランキングというのは、そういう、作って納得してもらえるものになる可能性が高いというふうに思います。たとえばレコード店のサイトでCDを買うと、そのショップ内のランキングでは当然上位になるんですけど、僕らがやりたいのはそういうものではない。ユーザーにとって分かりやすいヒット曲というのを残したいんです。たとえば1979年のオリコンランキングなんかを見ると、すごく納得がいくんですよ。今見ても、「たしかにこれがヒットしていた」と思える。ビルボードアメリカのランキングも、やっぱり70年代とか80年代はすごく楽しいわけです。そういう、30年後に見て納得できるランキングを残していきたいなと思いますね。