ビルボードジャパンが「複合チャート」を作る意味とは? 担当ディレクターに狙いを聞く

「動画閲覧数のデータを加えることも準備中」

――アメリカの場合だと、今はさらにCDが売れなくなっている状況がありますよね。だからストリーミングやダウンロードの数字をランキングに反映させる重要性はあると思うんです。しかし日本は、いいことなのかはわからないですけれども、とりあえずCDの販売数を維持している。そういう状況はもう変わってしまう、つまりCDのセールスランキングだけが信頼される時代ではなくなると思いますか?

礒崎:そうですね。アメリカのHot 100は、接触と所有、2つのデータをうまく混ぜながら1958年からやってきたんです。それだけ長いことやっているチャートが価値を持つと、レコード会社の人たちもそれを意識せざるを得なくなる。つまり、所有に結びつけるためには接触させる、という発想に簡単に行き着いていたんじゃないかな、っていうふうには思います。接触と所有をイコールで考えやすい。ところが日本は、所有の方に比重をかけたランキングが一般的である。とすると、接触の方に振れるような、ストリーミングなどのほうには、なかなか舵を切りにくい。最近はそういう事情もあるのかなと思っています。

――まあでも、かなり長い目で見れば今後CDというものがなくなっていくのは当然なわけですよね。そしてデータ配信のほうが主流になっていく。そう考えると、今の段階からビルボードジャパンが接触を含めたランキングを提示しているというのは価値のあることですね。

礒崎:そう思ってやらせていただいています。複合データのコンバインに関してはノウハウが必要なんですよ。CDセールス数のかわりにダウンロード数を集計するのとは、少しわけが違いますよね。僕らもデータを合算するときにはアメリカに相談しながらトライ・アンド・エラーをずっとやってきている。それは僕らの強みではあると思います。あるいはラジオのパワープレイを取ると、たとえば購買数にどれだけ影響が跳ね返るかみたいなデータも、B2Bでは提供していきたいなと思っています。いま準備中なのは動画閲覧数のデータですね。これが20万回、200万回見られましたっていう数値が、セルやダウンロードにどれだけ跳ね返るかをお見せできれば、ストリーミングさせること、接触させることが、ちゃんと購買にもつながる、買ってもらえるじゃないかというデータが蓄積されるはずなんです。そうなれば、LINE MUSICとかSpotifyとか、いま準備が進んでいるストリーミング系のサービスに原盤を供給しようかなという道筋がもっともっとできるかもしれない。いろいろ積み上げていって、ようやくここまで来たという感じですね。

――お話を伺っていると、販売チャートに対するオルタナティブという姿勢もありますが、最終的には販売も含めた、あらゆる音楽業界の状況をカバーした総合チャートを一手に引き受けるような思想を感じますね。

礒崎:僕らビルボードのデータはB2Bでもマーケティングデータとして使えるように作っているつもりです。しかし権威化するつもりはさらさらなくて、ユーザーの方に歩み寄って、ユーザーにとって共感性が高いものを作っていきたいなと思いますね。

――より一般ユーザーに知らせていくため、この先どういう取り組みをされる予定ですか?

礒崎:先程お話しした「Billboard JAPAN Music Awards 2014」は、我々の開催意図として何よりもまずユーザーの方々に複合ランキングを経験してもらいたくて、複合ランキングをみんなで作ってみようという企画を試みました。ビルボードジャパンの年間チャート1位から100位の100曲をノミネート楽曲とし、ユーザーにそのなかから「今年の1曲」をツイッター投票してください、カラオケで歌ってみてくださいと参加を呼びかけました。その集計結果は、1位・西野カナになったんですが、惜しくもトップになれなかった曲についても、ユーザーが聴いてもらえるプラットホームになればいいなと思ったんです。ツイッターではそれぞれのアーティストのファンが、お互いの労をねぎらう感じで会話していて、面白かったですよ。すごくピースフルなネットイベントになっていた。

――誰にとっても、頑張って応援したということがポジティブに捉えられるのはいいですね。

礒崎:そうやってユーザーを巻き込んでいきたいんですが、今度はチャートを各指標にしたがってソートしたり、期間を指定できるようなサービスも準備中です。つまり、ユーザーがチャートに直接触れるようになるんです。さらにYouTubeの動画が公式で上がっていれば、その場で見ることもできる。曲名をクリックすると、その曲が各週ごとにどう推移したのかも見られる。西野カナと家入レオを比較することなんかもできる。そうすることで、それぞれのアーティストが得意な指標がわかったり、この曲はエアプレイが伸びているとかセールスが伸びているとか、いわゆる大人の事情(笑)みたいな話ではない文脈で、楽曲自体を分析することができる。そういうチャートを一般ユーザーに見せたかったんです。

――それは素晴らしいですね。つまり、楽曲の価値についていろんな点から比較検討できる。

礒崎:はい。ユーザーは楽曲を評価する前から、ノイズじゃないですけど、いろいろな情報を既に持っていますよね。しかし、そういう部分を差っ引いて作品を眺めることができるようなサービスを作れたらいいかなあと思うんです。かつて「ザ・ベストテン」とかアメリカのビルボードのランキングを頑張ってノートに付けてた人もいると思うんですけれども、それと似たような楽しみ方が、このサービスでできればいいなと思っています。

(取材・文=さやわか)

Billboard JAPAN.com

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