『アンサンブルー』リリースインタビュー
徳永憲が語る、クールな音楽の作り方「作った瞬間の盛り上がった気持ちはすぐ忘れたい」
ーー今回アルバムには強いテーマはないということですが、タイトルにもなっている「アンサンブルー」ってどういう意味があるんですか。
徳永:ブルーの集合体、ってことなんですけど…言葉で説明するのは難しいんですが、世の中の悲しい部分、ブルーな部分は寄せ集まって、支え合ってる部分もあるんじゃないかと。この世界って、いくつもの「死」の上に成り立っているわけじゃないですか。そういうブルーな経験の繰り返しの中で、うまいことバランスを保ってできてるんじゃないかなと。そういう意味ですね。
ーー終わったり亡くしたりたり死んだり壊れたりすることが、必ずしもネガティヴな、悲しいことだけではない。
徳永:そうですね。そういうブルーなことが積み重なって、その悲しみの上に、楽しいことも喜びもあるという、そういう考え方もできるなと。
ーー1曲目の「ザ・解体ショー」では、いきなり「もう僕には時間がない」「全てを失った」という表現が出てきますね。いきなり「失う」ことから世界が始まっている。
徳永:うん。それは後ろ向きなんじゃなくて、そこがスタート地点だってことですね。そこから新しいことも始まるわけで。
ーーそれで最後の曲が「メタルが好きだ」というヘヴィ・メタルが好きなサラリーマンの歌ですね。「仕事人間 趣味はただひとつ メタルが好きだ メタルが大好き」とユーモアたっぷりに、でも愛情を込めて歌われる曲で、つまりすべてを失った人に最後に残ったのがメタルだという(笑)。
徳永:(笑)そうですね。それは正しいんですよ、男の生き様として。
ーー「男の生き様」なんて徳永さんの口から出てくるのは面白い。
徳永:昔ある人に言われたことあるんですよ。「〜しておくれ」とか「〜してほしい」とか、そういう言葉が出てこない。そこに男を感じますねって。考えてみると女性アーティストって「私を見て」とか「私を抱きしめて」とか。
ーーああ、要求するような。
徳永:でも僕にはそういう歌詞は全然ない。我が道をいく感じが男っぽいって。そう言われればそうかなと。
ーーそれはいろんなことが自分の中で完結していて、他者に対して何かを求めることがないってことですよね。リスナーに対しても、共感を求めるようなところがない。
徳永:そうですね。表現の対象としては自分だけじゃなくいろんな人を巻き込んでるんですけど、それは少しわかりにくいかもしれない。といってわかりやすくして賛同を得るような言葉にはならないし、したくない。
ーーそれはさきほどの話に通じますね。補助線を引いてわかりやすく共感を求めるような歌にはしたくないと。
徳永:ああ…僕がもしそういう曲を書き始めたら終わりだなって書いてください(笑)。
ーーそれが徳永さんの個性でありアイデンティティだということですね。
徳永:僕がデビューする前にレコード会社の人に言われたのが、徳永君にしか書けない曲を聴きたいということ。結局大事なのは個性で。アコギを弾いて歌うシンガーソングライターなんて、世の中に掃いて捨てるほどいるじゃないですか。自分にしかできないものっていうのは、それから常に意識するようになりましたね。そうすることで自分の個性というものに気づいたし、そういうものしか出てこなくなりました。
ーー変則チューニングだったり、コード進行だったりメロディの付け方だったり、共感を求めないクールでひねくれた歌詞だったり。
徳永:うんうん。
ーーそういう徳永憲の「核」をどうポップ・ミュージックとして肉付けして昇華していくのか。前作は比較的シンプルな作りでしたが、今回はストリングスやホーンがかなり大幅に導入されてますね。その凝ったアレンジが音楽の豊かさに繋がって、ポップ・ミュージックとしての完成度を高めていると思います。
徳永:『ねじまき』は歌詞の内容を邪魔するんじゃないかと思って、アレンジがストイックな作りになったんですが、今回はその反動ですかね。アレンジしたりコーラス入れたりするのは元々好きなので。
ーーガーンとギターかき鳴らして、あとは野となれ山となれ、というタイプじゃなくて…
徳永:違いますね(笑)。ちまちま作り込んでいくタイプ。それが楽しいのかと問われたら、なんとも言えないですけど。
ーー(笑)なるほど。
徳永:これを作ってる時に10c.c.をよく聞いてたんですよ。すごい変な歌が多いし、ひねくれてるし、アレンジも凝っていて、でもポップ・ミュージックとしてちゃんと成立している。何回聞いても飽きないし。自分の音楽とはだいぶ違うから参考にはしてないけど、勇気をもらうっていうかね。そういうあり方は見習いましたね。