成馬零一「テレビドラマが奏でる音楽」第1回

『問題のあるレストラン』ときゃりー「もんだいガール」が示した、ドラマと音楽の幸福な関係

 「もんだいガール」は、RPG(ロールプレイングゲーム)『ファイナルファンタジー』シリーズの戦闘シーンのテーマと似ていることが話題となっている。作詞・作曲の中田ヤスタカが意図したかはわからないが、解釈としてはあながち間違ってないと言える。つまり、この曲はたま子たちの戦いのはじまりを告げるテーマであり、戦闘シーンや、劇中で引用された『美少女戦士セーラームーン』のような、戦闘美少女アニメにおける変身シーンのテーマ曲みたいな使われ方をしている。だからこそ、他の主題歌の何倍もカタルシスがあるのだ。

 中田ヤスタカが作詞・作曲を担当する、きゃりーぱみゅぱみゅの曲は、イントロとサビが一番印象に残るように作られている。サビの多くはタイトルの「つけまつげ」や「にんじゃりばんばん」などを連呼するもので、その間をつなぐ歌詞は、きゃりーのか細い声のせいか、驚くほど印象は薄い。それでも曲が成立するのは、歌詞ではなく、きゃりーの衣装とPVの斬新なビジュアル自体が強いメッセージとなっているからだろう。

 彼女が一貫して歌っているのは「私はこういう女の子として存在している」ということだ。それが一番明確なのが「ファッションモンスター」だろう。  

 「ファッションモンスター」は、サビでタイトルを連呼した後で「このせまいこころの檻もこわして自由になりたいの」と歌う。

 言うまでもなく「ファッションモンスター」とは、きゃりーのことで、“好きな服を身にまとうことで人は自由になれる”と高らかに宣言しているのだ。

 一方、「もんだいガール」は、自由に生きようとすると「みんなとちがう」と言って足を引っ張り「もんだいガール」(問題がある)とレッテルを張る社会に対し、力点が置かれている。これは『ファッションモンスター』を真逆の視点から捉え直したもので、坂元裕二が、女性が自由に生きることを阻む男社会の輪郭を描こうとする姿ともシンクロしている。

 タイアップ曲として作られた「もんだいガール」が、きゃりーの表現にどのような影響を与えるのかは、まだわからない。だが、自由に生きようと思う程、社会に無関心ではいられないのだ。と、『問題のあるレストラン』と「もんだいガール」は教えてくれる。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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