Acid Black Cherryの音楽は感情をブーストさせる 最新作『L-エル-』に見るyasuの作家性とは?

 

 発売初日のオリコン&iTunesチャートで、見事ダブル1位という好スタートを切った、Acid Black Cherry(以下、ABC)約3年ぶり通算4枚目となるアルバム『L-エル-』。その人気の秘密や音楽的な評価については、既に様々なアプローチのもと多くの人々が語っているので、本稿ではアルバム『L-エル-』が描き出した世界――とりわけ、リリースによって遂にその全貌が明らかとなった初回限定盤同梱の“コンセプトストーリーブック”を読み解きながら、ABCというアーティスト目指すもの、そしてyasuというクリエイターの特異性について考えてみたいと思う。

 まず、最初に言っておきたいのは、『L-エル-』というアルバムを、より深く知る――と言うよりも、より多面的に感じるためには、迷わずこのストーリーブックが同梱された初回限定盤を手に取ったほうがいいということだ。実に100ページにも及ぶオールカラーのストーリーブック。アルバム・ジャケットにもなっている、印象的な少女の肖像画をはじめ、数十点の書き下ろしイラストと、びっしり書き記された文字。それは、単なるストーリーブックと呼ぶには、あまりにも見応え、読み応えのある一品に仕上げられているのだった。

 アルバム・コンセプトとして掲げられているように、そこに綴られているのは“エル”という名のひとりの女性の物語だ。幼き日の思い出から、タイトルバックを挟み、自らの人生を回顧する老女。“色のない街”に生まれた彼女は幼き頃に両親を亡くし、遠縁の親戚夫婦のもとで暮らすことになる。やがて逃げるように街を去り、“色のある街”で暮らし始めるエル。そこで出会った男たち。そして、彼女の職場となるキャバレーの狂騒。波乱の人生を送りながら、やがて老年を迎えた彼女が、その最後に見た光景とは?

 コンセプトと呼ぶには、思いのほか緻密に作り込まれたその物語を読んで、まず思い浮かべたのは、ラース・フォン・トリアー監督の映画『ニンフォマニアック』だった。数奇な運命を辿った女性が、自らの遍歴を赤裸々に回顧する物語。もちろん、アルバムごとに明確なコンセプトを設けてきたABCは、これまでも7つの大罪をテーマにした『BLACK LIST』、「ブラック・ダリア事件」から着想を得た『Q.E.D.』、マヤ暦における世界終末をモチーフとして「『2012』」など、数々のコンセプト・アルバムを世に送り出してきた。しかし、本作『L-エル-』は、それらと比べても、かなり具体的な人物設定や状況、出来事、そして絡まり合う人間関係などが細やかに設定されており、それはもはや“短編映画のような”と言った形容すら超えて、むしろ“長編映画のような”壮大な物語を描き出してゆくのだった。

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