アンジュルム「大器晩成」楽曲提供で再注目 異端のシンガー・中島卓偉のアーティスト性とは?

hideとの共通項

 西川貴教がTAKUIを「昔の俺みたい」と評したことがある。同じヴィジュアル系シーンにいながら野太いハイトーンの異色スタイルに共感を得たのだろう。また、TAKUIはhideとも接点があった。2001年1月に始まったhideミュージアム&LEMONedのテレビ番組『Cafe Le PSYENCE』のコーナーを担当し、そこでTAKUIを知った人も多いはずだ。直接交流があったわけではないが、ヘヴィサウンドに起伏の激しいキャッチーなメロディーセンス、という部分で共通項も多い。

 Dope HEADz、TRANSTIC NERVEらが所属していたアンリミテッドレコードからリリースされた『NUCLEAR SONIC PUNK』にはzilchのRAY(レイ・マクヴェイ)も参加しており、収録曲「UP TO DATE」「イノヴェーター」MVには、zilchのドラマー、ジョーイ・カステロ(2002年にクイーン・オブ・ストーンエイジに加入、2012年脱退)が参加、プロデューサーであるCJデヴィラはX JAPAN「ART OF LIFE」や「SCARS」にも携わっている人物でもある。サウンド以外でも、ヘアメイクをSQUASHの宮城浩氏が、ジャケット写真は菅野秀夫氏というhide周りのスタッフで固められた制作陣営だった。そこにレコード会社の思惑も見え隠れするのだが、TAKUIの確固たるスピリットがあり、決して二番煎じでないことはファンがよく解っていた。シングル曲をアルバムに収録しないという非商業的でもあるスタンスに好感を持ったファンも多いに違いない。

“TAKUI”から“中島卓偉”へ

 あまりにインパクトの強かったデビューのため、反面で苦しめられることもあったかもしれない。その後、音楽性を拡げたときは「ポップになった」と評されることもあった。往年の人気曲を封印したこともある。そして、2006年に本名である“中島卓偉”に改名。“TAKUI”とは、バンドサウンドを目指すためのバンド名のようなものであり、本名を名乗ることは、一人のアーティストとして活動していく決意でもあったのだろう。

中島卓偉 『3号線』 (PV)

 無謀とも思えた24時間生中継ライブ「TAKUI NAKAJIMA 24hour LIVE on USTREAM」を2回やりきった。2011年10月22日19時前、最後の声を振り絞るように歌った満身創痍の『3号線』。デビュー時の尖っていて生意気な性分だったTAKUIとは違う姿ではあるが、心の底から音楽と歌が好きで、歌うことはこんなにも素晴らしいと、当たり前のことを当たり前のように身を持って証明してくれた。

ライブは当人もだがオーディエンスの熱さも凄まじい

 「大器晩成」は楽曲提供のために書き下ろしたわけでなく、自分用の楽曲だった。実力を評価されながらもヒットを生み出すことが出来なかった悔しさを自分自身に言い聞かせているようにも聴こえる。己のことを「大器晩成」と言い切れるアーティストがどこにいるのだろう。近年は「丸くなった」と言われることも多いが〈俺は一千万人に一人のエンターテイナーだ〉と言い放ったあの頃と、その本質は何も変わっていないのだ。「誰もわかってくれない」「口パク禁止令」…そんな楽曲タイトルそのままのアーティスト性に込められた反骨精神は未だに宿り続けている。それは歌を介し、人生における孤独や挫折を味わった人ほど沁みるように思う。たとえそれが静かなバラードではなく、爆音サウンドでも、泣ける曲は泣けるのだ。自分の弱さを力強く歌うアーティスト・中島卓偉、いつだって熱い男なのである。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

関連記事