『アイドル楽曲大賞』アフタートーク(後編)

4人の論客が予測する、2015年のアイドル楽曲とシーン「作り手にはまだまだ頑張ってほしい」

「投票しないし現場には行かないけど結果を気にしている、という人はたくさんいると思う」(岡島)

――2014年のシーン全体を振り返ると、それぞれどのような見立てをお持ちなのでしょうか。

ガリバー:今年現場で個人的に一番言われたのが「ガリバーさんみたいなDDスタイルはもう流行らないですよ」ということでした。皆それぞれに落ち着く先の現場を見つけていって、「ガリバーさんよくやりますね」というようなことを昔一緒にDDやっていた人から言われたことがすごくショックでした。

宗像:それはアイドルオタクのマイルドヤンキー化だよ(笑)。小さなコロニーを作ってその中で楽しくやっていこう、みたいな。

岡島:僕も2013年より2014年の方が在宅が多かったと思います。その意味では「それぞれの現場に帰っていった」というところがあるかもしれません。僕の現場はパソコンの前なので(笑)。

宗像:メンズサイゾーで書いている僕の年間ベスト記事が、2014年の記事は今までで一番シェアされたんですよ。僕の場合は音楽評論家という肩書でベスト10を作っていて、楽曲大賞とは違うけれど、新しいものと出会うきっかけを見つけたいと思っている人が増えたのかな、と考えています。

ガリバー:確実にアイドルファンという層は広がっていますよ。入り口はAKB48だったりハロプロだったりするかもしれないですけど。ランキングを見て改めて思うのは、2014年の現場には原点回帰的なサウンドが多く、東京のアイドルが一番元気だった。アイドルネッサンスがその最たる例ですし、Dorothyに関しても、仙台の人は、仙台のアイドルという認識ではないと思います。そしてその両方が極めてシンプルでプリミティブなステージをやっていることが一因だったと思います。

宗像:あと、2014年の個人的な体感としてはBELLRING少女ハートやゆるめるモ!を代表格に、セールスはそれほどでもないけれど動員が強いアイドルが増えた印象です。BELLRING少女ハートがインディーズにいるという選択をして赤坂BLITZでライブをやる、というのは80年代には考えられないことでした。インディーズにいることが普通のことになっただけではなく、下手なメジャーアイドルよりも動員を持っていて、しかもセールスはそれほど積ませない、ということがすごく面白い。

ガリバー:あと、重大な出来事としてはAKB48の握手会斬りつけ事件がありました。社会的にも、アイドルの運営側にとっても大きな出来事だったと思うのですが、ヲタ側からするとそれほど大きい影響があったというわけではないのかもしれません。

ピロスエ:あの影響でハロプロの(リリイベやライブ後の)握手会では、荷物を一人ずつポリ袋に入れて係員に渡してから握手、という形になりました。

宗像:インディーズのアイドルでも、いったん荷物を預かったりするなど、各運営でそれぞれ対策が講じられています。

ピロスエ:ハロプロに関して言うと、ハロプロ楽曲大賞の推しメン部門で「鈴木香音と佐藤優樹の順位が高過ぎるのでは?」という声がありました。現場感覚では人気順をチェキなどの売上順で可視化しているため、推しメン部門のランキングが実際の現場の実感と乖離していると考えられているのでしょうが、冷静になって考えると、チェキを買う人たちは接触したい層に限られるわけで、現場にいない人たちからの人気ではない。ハロプロでも個別握手が始まって以降、人気の指標軸が現場感覚に寄ってしまっている部分があるかもしれません。

宗像:橋本環奈(Rev. from DVL)もそうですよね。世間的にはザ・アイドルとして認知度は高いけれど、太いヲタがどのくらいいるのか、という。

ピロスエ:太いヲタをちゃんと掴んでいるのが、本来の意味の「ライブアイドル」だよね。

ガリバー:夢みるアドレセンスが乖離している顕著な例ですね。東京国際フォーラムをソールドアウトして、日本青年館でもやっているのに、今回のランキングには入らない。曲はすごく良いんですけれど、支えている層の半分が女子で、ヲタ支持ではないんですよね。

岡島:投票しないし現場には行かないけど結果を気にしている、という人はたくさんいると思います。だからこそタワレコなどですぐにランキングが貼り出されたりコーナーができたりするんでしょう。『アイドル楽曲大賞』はマス向けのところでやるべき企画なのかもしれません(笑)。

ーー2015年の展望についてはいかがですか?

岡島:清竜人25はまだまだ良曲を連発しそうですね。もっと清竜人が歌っているのかと思っていたら、曲を聴くと半分以上6人が歌っていて、ちゃんとアイドルポップスにしている。

宗像:限定版のシングルが手に入らない、とみんな言ってましたね。TOWER RECORD渋谷店・新宿店でしかイベントを行っていないにも関わらず高い売り上げを記録しているため、本格的に動き出したら大ブレイクするでしょう。2015年を真面目に考えると、アイドルのマーケットはこれ以上は広がらないかな、と正直思います。ガリバーさんは広がると思いますか?

ガリバー:去年もこれ以上広がらないと思ったら曲数的には微増かもしれないけれど増えています。爆発的に売れる次のアイドルは出てこないかもしれませんが、母数は増えて、底上げ的な広がり方をすると思います。

岡島:僕は「アイドル専門ライター」を名乗っている以上「広がる」と言わなきゃいけないですね(笑)。でもほんとに広がると思ってますよ。

宗像:広がった時に感じるのは、ヲタのマイルドヤンキー化でしょうね。だからEspeciaが若旦那を入れたことは正しいんです。あれはマイルドヤンキー化の先駆けですよ(笑)。

ガリバー:マイルドヤンキー的なヲタを数多く抱えてるのが現在のAKB48グループですが、『AKB紅白』の感想会をしたときには「100万枚を続けるのは無理だから、各グループが50万台をキープすることに落ち着いていく」という意見が出ました。ミリオンを狙いに行くのは無理がある、ということは運営も気づいているでしょうし、握手会も完全にルーティーンと化している中で、「夏祭り」のような試みも出てきた。今後は過剰に売れているものと全く売れていないもの上下の幅を狭めていくことになるのでしょう。マーケット的に広がってはいかないけど、急降下の兆しもないので、良い形にソフトランディングするのかもしれません。

宗像:僕もそう思います。急降下は今の状況から想像しにくいですね。ある程度の数のヲタがAKB48グループをライフスタイルに組み込んでいる以上、急降下はしないでしょう。

岡島:あと、新しくアイドルに手を出すメジャーな事務所が増え出してますよね。そういうところで「最古参」になろうと頑張るオタを心から応援したいです。

ガリバー:アイドルネッサンスに関しては、今から入ってくる人たちにとって、訳のわからない現場になっているんだろうな、と思います。

宗像:今日の結論は「2015年こそ古参になろう」ということで(笑)。

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