赤い公園が新作で見せた「ポップス力」とは? メンバーの個性から魅力に迫る

 最後に、ライブではステージ中央でバンドの顔となり、「のぞき穴」(『公園デビュー』収録)を演奏するときは「かかってこいやー!」と強烈なアジテーションも行うボーカルの佐藤千明だが、僕の思う彼女の特徴は発語の美しさであり、日本語の聴き取りやすさだと思う。極端な言い方をすれば、今の日本のガールズバンドはすべからく椎名林檎かYUKIのボーカルスタイルから影響を受けていて、前述の亀田に加え、YUKIの代表曲を手掛けている蔦谷好位置も本作にプロデューサーとして参加していることを考えれば、赤い公園もその要素は持っているのかもしれない。しかし、佐藤は基本的に巻き舌は使わないし、あえて日本語の発音を崩すような歌い方もしない。言ってみれば、大貫妙子からいきものがかりへと至る、日本の王道的なポップスの系譜に位置づけられるべきシンガーなのであり、「誰かが言ってた」のような、まさにポップス色の強い曲がバッチリとはまっている。もちろん、ドスの効いた情念系の歌唱も持ち味のひとつではあり、津野の作る映画音楽ばりのスケール感を持ったバラード、本作で言えば、ストリングスを配した「ドライフラワー」のような曲においては、壮大な世界観を見事に体現している。

 こうやって一人一人の特徴を見て行くと、アバンギャルドな側面が際立つ一方で、赤い公園があくまでポップスを鳴らすバンドであることが裏付けられると言えよう。ちなみに、津野はジム・オルークのファンであることを公言しているが、現在ジムのパートナーとも言うべき存在の石橋英子が、ジムをメンバーに含むバンド「もう死んだ人たち」と共に作り上げた最新アルバム『car and freezer』(ジャケットには、「赤い」衣装を身にまとった石橋の姿が)は、先進的なポップスとして今年を代表する傑作だと思う。赤い公園もあと10年もすれば、いやもっと近い未来に、こんな作品を作り上げるのではないかと、勝手に期待をしている。

(文=金子厚武)

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