デビュー前にグラミー賞を獲得した注目の歌姫・キンブラ「別の世界に連れて行ってくれるのが音楽の力」

 

 グラミー賞も受賞した世界的な大ヒット曲、ゴティエの「Somebody That I Used to Know」にフィーチャーされ一躍注目を浴びたキュートでエッジーな歌姫、キンブラ。日本デビューとなる2年振り2枚目のアルバム『The Golden Echo / ザ・ゴールデン・エコー』を9月10日にリリースした。コーネリアスの音楽性を例に挙げながら、異なる音楽的要素の“並置”を作品のテーマに掲げたという今作。キンブラが影響を受けた70年代の音楽を反映させながらも新しい解釈を加えたものになっているという。今回リアルサウンドではレーベルによるオフィシャルインタビューの抜粋を紹介する。

「私にとってのあの曲の功績は、『この世の中、なんだって起こり得るんだ』と証明してくれたこと」

――今まで、仕事でもプライベートでも日本に来たことはありますか?

キンブラ:それがまだないのよ。でも行きたくてたまらないの。世界中どこよりも、日本にいつか行けるのを楽しみにしているわ!

――へえ、それはなぜですか?カルチャーなどに興味があるんですか?もしくは好きなアーティストがいるとか?

キンブラ:理由がたくさんありすぎて大変よ! まず私は、若い頃からずっと日本のストリート・ファッションのブログを熱心にチェックしていたの。日本の若者のファッションに夢中で、そこから窺える豊かなイマジネーションに魅了されたわ。ほかに、映画やアートの影響も大きいわね。私が一番好きな映画監督のひとりが宮崎駿なの。本当に大好き!10代の頃からのファンで、彼の監督作は全部見ているわ。そして黒澤明も好き(笑)。あと、お気に入りのミュージシャンにも日本人が結構多いの。例えばコーネリアスとかtoeとか。挙げ始めたらキリがないわ。

――来日する機会があったら、どんなことをしたいですか?行ってみたい場所などありますか?

キンブラ:そうねえ……あ、東京には宮崎駿のギャラリーがあるのよね!

――美術館ですね。

キンブラ:そこにぜひ行きたい!あとはやっぱりゴハンね。ジャパニーズ・フードが大好きだから、あれこれ試してみたいわ。

――どこへ行っても訊かれると思いますが、あなたが参加したゴティエの「Somebody That I Used to Know」が世界的な大ヒットとなりました。その功績を実感することはありますか?

キンブラ:私にとってのあの曲の功績は、「この世の中、なんだって起こり得るんだ」と証明してくれたことだと思うの。すごくオーガニックな形で生まれた曲で、私のボーカル・パートは実は私のベッドルームで録音したくらいなのよ。当時は、素晴らしい曲だとは思ったけど、もちろんあんな結果になるとは思ってもみなかった。だから私に、この世界にはいろんな可能性があるんだと信じさせてくれたわ。私たちはひとつの作品に、たくさんの想いや目論見を込めるものだけど、一旦発表して世に送り出したら、それは独自の生をうけて、独りで歩いてゆくものなのよ。そういったことを実感できて、私には大きな励みになったし、結果的にいろんな道も拓けた。世界中を旅する機会も得て、旅を通じて自分自身について多くを学んだわ。

――「Somebody That I Used to Know」の前後では、音楽制作の面とプライベートの面で違いは生まれましたか?

キンブラ:ええ。まずミュージシャンとして世界への道が拓かれたし、以前は不可能だったことも可能になった。例えば、これまでは、コラボしたいなあと夢見ていても恐らく手が届かなかった人に、アプローチできるようになった。あの曲が成功したことで私の名前が広く知られるようになったわけだけど、それだけじゃなくて幸運にも私は、クリエイティブな意味で非常に高く評価された曲に関わることができた。ほら、あの曲はラジオで人々が聴き慣れた他のポップミュージックとは全く違って、音楽シーンに訪れたひとつの変化を示唆していたと思うの。ポップミュージックの捉え方が変わったというか。そういう作品に参加できて本当に光栄だし、それゆえに多くの人が私に興味を抱いてくれたのよ。

――日本デビューとなるセカンドアルバム『The Golden Echo』のコンセプトがあれば教えていただけますか?

キンブラ:そうねえ。今回は最初から特定の時代やスタイルに根差した曲を作ろうとしていたわけじゃなかった。とにかくイマジネーションを最大限に利用し、そう、イマジネーションを解き放って、それが導くままに任せようと思った。そして、例えば70年代の音楽にも大いにインスパイアされたんだけど、その影響を反映させつつも、私としては、そこにいかにして新しい解釈を加えるか、それをいかにして新しい表現として蘇らせるかってことが課題だった。だから“並置”というのが、間違いなくアルバム全編をつなぐ共通項でもある。そもそも私が好きなアーティストっていうと、ひとつのアイデアを取り上げて、それを全く異なる世界からピックアップした別のアイデアとミックスする人たちなの。コーネリアスもすごく分かりやすい例だと思うわ。彼の曲にはとてもドリーミーなメロディが流れているんだけど、その向こうに非常にアグレッシヴなサウンドが鳴っている。アルバム『FANTASMA』にしても然りで、ヘヴィメタル的なギターサウンドや重々しいパーカッションが使われていて、必ずしもトラディショナルとは言えない要素をミックスして音楽を作るのよね。そうすることによって、聴き手の感性を押し広げてくれる。このアルバムに向けて曲を書いていた時の私も、まさにそんなことを意識していたわ。一度聴いただけじゃ、それがいったいどういう成り立ちなのか分からないようなサウンドを見つけ出すことを。

――アルバム全体のビジョンというより、曲作りのアプローチということですね。

キンブラ:そうね。「R&Bアルバムを作りたい」とかっていう話じゃなかった。そんなアプローチで、そんなスピリットを胸に抱いて、アルバム作りに取り組みたかったの。それにもちろん、今回の私は大勢の多彩なミュージシャンとコラボしたから、そういう作業の中で自然にサウンドが形作られて、よりクリアなアルバム像が見えてきたのよね。あとは、アルバムのビジュアルコンセプトも重要な役割を担ったわ。アルバムのアートワークはギリシャ神話のナルキッソスの物語に根差している。つまり、自分自身の鏡像と恋に落ちてしまう人の物語なんだけど、 “自分自身にとらわれる”という要素がアルバムに反映されていて、同時に、“カオス”と“平穏”や“静謐”や“黙想”を並置しているの。そんなわけで“The Golden Echo”とは私にとって、自分が慣れた環境の外側へと誘うサウンド、より深く耳を澄まそうと呼びかけるサウンド。そしてギリシャ神話の物語を掘り下げて、“golden echo”という言葉そのものについて調べれば調べるほど、私にとってその意味は強まっていった。それが厳密に何を指すかは、それぞれの解釈に任せたいと思ってるけど。

――かなり早い段階で、その“golden echo”という言葉を夢で見たそうですね。

キンブラ:ええ。アルバム制作のちょうど半分の作業が終わった頃だったかしら。“golden echo”という言葉が鮮烈に心に焼き付けられて、リサーチをすればするほど、このシンプルなお花(“golden echo”はラッパ水仙のこと)を出発点にこんなに深くまで掘り下げられたことに驚かされた。深く掘り下げることで、パッと見たところではごく平凡なものに、叡智やイマジネーションが溢れていることを思い知らされた。そういう意味では、アルバムにも同じような狙いがあるの。聴き込めば聴き込むほどエキサイティングに響いて、かつ、説得力と効力を持つような作品にしたかったわ。

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