デビュー前にグラミー賞を獲得した注目の歌姫・キンブラ「別の世界に連れて行ってくれるのが音楽の力」
「日本は私にアーティストとしてとてもたくさんのインスピレーションを与えてくれた」
――歌詞はサウンドほどには複雑ではなくて、分かりやすい表現をしていますよね。リリシストとしてはどうアプローチしましたか?
キンブラ:できるだけダイレクトな表現をするように努めたわ。もちろんこのアルバムにもアブストラクトな部分があるけど、間違いなくダイレクトであろうとした。だって、サウンド面では挑戦的でありながらも聴き手にとっては入りやすくて、普遍的なメッセージを含んだアルバムにしたかったから。例えば「Goldmine」みたいな曲は、聴けばすぐにメッセージを理解できるわよね。そうやって、聴き手を私の世界に引き込むの。でも私は詩が大好きだし、複数のレイヤーがある歌詞も好き。それにいつも、必ず曲が完成してから音を聴きつつ詞を綴るの。音のインスピレーションが必要なのよ。サウンドとのパートナーシップがないと、詞を成立させるのは難しいわ。
――アートワークのモチーフもナルキッソスですが、コンセプトを教えていただけますか?
キンブラ:このアートワークは夢に根差しているだけに、一種の“兆し”みたいに感じられたのよね。私自身は関わっていなくて、夢で見た通りのイメージを表現していて、とにかくこうあるべきだと思った。そして、撮影をしてくれたフォトグラファーのトム・カー(Thom Kerr)と話し合った時、彼もコンセプトに賛同してくれたの。私は元々サルヴァドール・ダリが大好きで彼の作品の影響もあるし、ほかに黒澤明の『夢』にもインスパイアされた。あの映画を構成するエピソードに登場する風景にね。ほら、巨大なタンポポが咲いていて、あらゆるものの大きさの比率がおかしい荒地が出てくるでしょ? すごくサイケデリックよね。そういう、独自の世界に広がる風景を作り出したかったの。実際のアルバムジャケットは、開くとそこにも素晴らしいビジュアルがあって、ぜひチェックしてほしいんだけど、ダリの絵画の背景みたいな、もしくは黒澤映画のワンシーンみたいな感じなのよ。カラフルで、時計がやたら大きかったり、人間がものすごく小さかったり。とにかく独自の世界を作りたかった。私が好きなアーティストにはそういう人が多いのよ。コーネリアス然り、最愛のバンドのひと組であるミュウも然り。デンマークのミュウっていうバンド知ってる?
――もちろん。日本では大人気ですよ。
キンブラ:え、そうなの? 実はアルバムのデラックス盤にはミュウのヨーナス・ブジェーリが一緒に歌ってくれている曲があるの。「Magic Hour」っていうんだけど、日本のファンにぜひ伝えて! 彼らのビジュアル表現は独自の世界に完結していて、そこには不思議な生き物が棲んでいるわよね。だから今回のアートワークにはそんな目論見があった。それが何なのか分かるんだけど、どこかが違っていて、別の世界にいる感覚なのよ。
――グラミー賞時のドレスもさることながら、いつも群を抜いたファッションセンスが注目をされるあなたですが、何かこだわりやモットーなどはありますか?
キンブラ:ファッションは私にとって自己表現の手段のひとつであり、音楽の延長にあるわ。アーティストとして音楽を通じて私は自分を表現しているわけだけど、音楽と並んでビジュアルも、聴き手と対話する手段なの。ビョークを始めとする大勢のアーティストたちが写真やファッションやステージ衣装を使って、音楽のメッセージをより強いものにし、そう、独自の世界を作り上げてきたわ。例えばコーネリアスの『SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW』(2008年に行なったワールド・ツアー)でも、彼が作り出す、カラフルで何もかもが完全に同調している世界に、オーディエンスは没入することができた。彼の場合はファッションはあまり大きな要素ではないのかもしれないけど、非常にビジュアル性が高い。そういう表現をファッションは可能にできると思うし、実は子供の頃は裁縫が大好きだったから、今こうしてステージ用の衣装を作ったり、ファッションデザイナーたちとコラボできるなんて、私にとってはこれ以上ない喜びなのよ!
――特に好きなデザイナーはいますか?
キンブラ:例えばハイエンドなデザイナーなら、やっぱりアレキサンダー・マックイーンなんかは偉大だと思うんだけど、その一方で私は新進デザイナーも積極的にサポートしたいと思っていて、中でもオーストラリア人のデザイナー、ジェイミー・リー(Jaime Lee)の服はかなり着ているわね。あとはもうひとつ、“Desert Designs”というすごく新しいブランドも最近のお気に入り。同じくオーストラリアのブランドで、アボリジニのアートをファッションを通じて再評価しようと試みていて、アボリジニのアートに根差したプリントをたくさん使っているの。そういうアイデアも素晴らしいと思う。それから、KTZ(ロンドンのセレクトショップKokon to Zai“から派生したブランドのこと?)も好きよ。
――あなたはニュージーランドが輩出した数少ないグラミー受賞者のひとりですが、帰国する時はどんな扱いを受けますか?
キンブラ:そうね、特に私の故郷の町ハミルトンは本当に小さな町だから、やっぱり帰るとあちこちで人に呼び止められたりする。ニュージーランドの人たちは、私の成功に、一種の国民的な誇りを感じてくれているわ。だって、世界の中心から遠く離れた国だから、自分たちがやってることを国際的に認めてもらうのは本当に難しいのよ。だから、世界が自分たちに注目してくれているんだと実感することは、ニュージーランド人にとってエキサイティングなことだし、私もそういう意味でやりがいを感じるわ。
――日本のファンへメッセージをお願いします。
キンブラ:とにかく、ようやくこうして日本でアルバムを発表することができて、本当にエキサイトしてるわ。日本は私にアーティストとしてとてもたくさんのインスピレーションを与えてくれたから、今度はお返しに、このアルバムを通して私がインスピレーションを与えられたらって願ってる(笑)。それにアルバムには、日本の音楽ファンもよく知ってる大勢のアーティストが参加しているから、それも楽しみにしていてほしい。さっき挙げたMEWのヨーナスもそうだし、ザ・マーズ・ヴォルタのオマーも。オマーはまさに日本盤ボーナストラックの曲に参加してくれているわ。そして、このアルバムを通じてみんなが逃避できる場所を提供したいの。別の世界に連れて行ってくれるように感じさせるのが、音楽の力だと思うから。このアルバムを繰り返し聴いてもらって、ひとつの体験として楽しんでもらいたいわ。
■リリース情報
『The Golden Echo / ザ・ゴールデン・エコー』
発売:2014年9月10日
価格:¥2,200(税抜)