柴那典が「ドリカムの強さ」を分析

ドリカム、新作『ATTACK25』大ヒットの背景とは? “ヒットの方程式”に頼らない音作りに支持

DREAMS COME TRUEのニューアルバム

 筆者もサマーソニックで彼らのライヴを観たのだが、「うれしい!たのしい!大好き!」や「LOVE LOVE LOVE」「決戦は金曜日」「何度でも」などの人気曲で盛り上げつつ、新作からの「ONE LAST DANCE, STILL IN A TRANCE」も披露。吉田美和の圧倒的な歌唱力を中心に、ホーン隊やダンサーも含めた派手なパフォーマンスで、気合いの入ったステージを見せていた。25年のキャリアを経て初の夏フェス出演となった今回も、ファンだけでなく広い層に自分たちの音楽が持つ「エンタメと先鋭性の共存」を見せようという意志があったはずだ。

 そして、現在のドリカムの音楽性からは、様々なアーティストとの繋がりを見出すこともできる。

 そもそも、ドリカムの登場が画期的だったのは、ソウルやファンク、R&Bやフュージョンのバックグラウンドを元に、80年代以降の日本の音楽シーンに新たなポップスの形をつくったこと。プリンスやアース・ウィンド&ファイアー、ジャコ・パストリアスなどをルーツに、独特のシンセサウンドやヒネりに満ちたコード進行を加えたサウンドは、J-POPシーンとアメリカのブラック・ミュージックを繋ぐリンクの一つとなった。

 また、NHKの番組『SONGS』でも明かされた通り、シンガーやミュージシャンやダンサーが一つのチームとなって総合的なエンタテインメントを作るその精神性は、親交の深いHIROを通じてEXILEにも受け継がれている(参考:EXILE・HIRO、ドリカム中村と“苦難の時代”を語る「がむしゃらに売れたいと思った」

 そして、自らの音楽的ルーツへのリスペクトを示すことも今のドリカムの活動の大事な要素になっている。たとえば、中村正人と吉田美和がオーナーを務めるレーベル「DCT records」では、スティービー・ワンダーやジャクソン5の作品に参加しモータウン・サウンドを支えてきた73歳の名ギタリスト・デヴィッド・Tウォーカーのソロアルバムもリリース。彼は新作の“A面”収録の「MORE LIKE LAUGHABLE」にもゲスト参加し、円熟のギタープレイを聴かせてくれている。

 一方、アルバムには最先端の音楽シーンとのリンクを感じさせる楽曲もある。同じく“A面”収録の「軌跡と奇跡」は、デビュー作が世界中でヒットしているスウェーデン発の3人組、ダーティー・ループスにも通じるテイストの楽曲。インタビューでは、ブレイク以前から吉田美和が彼らのことを気に入っていたことも明かされている。

 カバー盤『私とドリカム-DREAMS COME TRUE 25th ANNIVERSARY BEST COVERS-』の豪華メンツが証明しているように、いまや下の世代のミュージシャンからも広く尊敬を集めるドリカム。吉田美和の“天才性”と中村正人の“職人魂”との絶妙なバランスが、これまで25年の活動を支えてきた。ニューアルバムでは、これまでのヒットの方程式を繰り返すのではなく新たな刺激を生み出そうとする意志も見せてくれた。

 中村正人はデビュー当時も今も目標を「グラミー賞」に定めている。J-POPという特異な音楽シーンの礎となったその功績が、この先、海外からも認められる日が訪れるかもしれない。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

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