じん(自然の敵P)が体現する新しいプロデューサー像 物語作家として音楽を作るプロセスとは?

 言い換えるなら、彼はただの音楽プロデューサーではない。彼がやっているのはカゲロウプロジェクトという、音楽もその中に含んだ、もっと大きなカテゴリーで捉えられるべきもののプロデュースをしているのだ。そして、音楽を担当している自分もまた、そのプロデュースの一環に組み込まれている。

 カゲロウプロジェクトは、かつて桑田佳祐や小田和正やカールスモーキー石井などのミュージシャンが急に映画を撮りだしたようなこととも違う。じんは映像については、あくまでもそれぞれの分野のプロに担当させたがっている。しかし物語の根幹部分については彼独特の判断があり、それに沿って制作を進めようとする。その意味で彼は圧倒的に物語作家であり、音楽を作る自分もまたその物語に付き従っていることになる。しかし彼の物語とは、まず音楽を発端としてしか表れてこない。そこが面白い。じんが物語を第一に考えており、音楽を重視していないならば、もはやそれは音楽プロデューサーの地位が下げられているように思う人もいるだろう。しかしじんがやっているのはむしろ常に音楽プロデューサーという地位から始まって、それが他分野にまで拡張されていくことなのだ。

■さやわか
ライター、物語評論家。『クイック・ジャパン』『ユリイカ』などで執筆。『朝日新聞』『ゲームラボ』などで連載中。単著に『僕たちのゲーム史』『AKB商法とは何だったのか』『一〇年代文化論』がある。Twitter

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