豊田道倫『SING A SONG2』リリース記念対談
豊田道倫+カンパニー松尾が語る、2014年の言葉と音楽「皆のモヤモヤしたエネルギーを感じる」
「東京の人たちに歌が通じて、盛り上がったのは全く計算外だった」(豊田)
松尾:不思議と、豊田くんに関わっていく人たちはブレイクしていくんだよね(笑)。触媒のような存在でもある。最近では(豊田楽曲の)カバーをやってた大森靖子さんは、ふわっと通りすぎていった一人だね。
豊田:(笑)そうかなぁ。彼女は加地くんのことがすごい好きで、研究していました。はじめて会ったときは本当にアンパンマンみたいだった。
松尾:彼女は痩せて、きれいになったね。豊田くんの音楽は、西日本の人、大阪の人が作ったものという感じがする。“照れくさい”っていう感覚かな。普通の人だったら“俺はこうなんだ!”とかきっぱり言っちゃうんだけど、言い切っちゃった時が一番ウソくさいというか、怖いというか。僕も名古屋出身でどっちかというと西なので、日本全国いろんな土地があるなかで、西の人の感覚ってなんとなくわかるんですよね。
豊田:上京した時、東京の人たちに歌が通じて、盛り上がっちゃったのは実は全く計算外だった。そうなったらもう抜け出せなくなってしまって、『人体実験』(2003年)を出した頃とか、ちょっと自分らしくないな、って感じていました。自分ではもうちょっと軽いことをしたかったし、それは今でも変わらないかな。……今年は松尾さんの映画『劇場版テレクラキャンボール2013』がヒットして、全国いろんなところで上映されて。一週間だけ上映していた時は、こんなに広がるとは思わなかった。
松尾:嬉しいことなんだけど、『テレクラキャノンボール 2013』がヒットしたのは本当に意外。自分はずっとエロビデオの監督だと思ってこだわってやってるけど、それはやっぱりその島でしか消化されないものなんですよね。だから自分の中で違うことをやった「テレクラキャノンボール」がこういう風に広がったのは不思議。
ネタ的には厳しいはずだったんですよ、◯◯◯とかそういうものもあったんで。劇場公開するって話が出たとき、ドキュメンタリー監督の松江(哲明)くんからも「女性には受け入れられますかね?」って聞かれて、「そんなの受け入れられるわけねぇじゃん!そういう要素ゼロだよ!」って言い放って。実際、自分で観ても男子校のノリで酷いなと思ったんだけど、蓋を開けてみたら案外いま来てるのは女の子なんですよね。やっぱり女性と一言で言ってもいろんな人がいるので、いわゆる“女性向け”みたいなものに飽々している人たちがいっぱいいたのかなと嬉しかったですね。
豊田:都会に行けばいろんなライブとか映画とかあるけど、『テレクラキャノンボール 2013』みたいに人間が血の通った言葉で喋ってる作品ってあんまりない気がする。普段に近い言葉っていうか。
松尾:震災って、やっぱりデカくて、しばらく自粛モードがあったじゃないですか。全部あれで持っていかれちゃって、ここ2、3年で出てくるのは絆とか、そういう言葉ばかりだった。ライブでもテレビでも使える言葉が少なくて「ありがとう」とかの綺麗事だけに狭まっちゃったんですよね。その反動が今出てきて、これからエンターテイメントは面白くなるんじゃないかな。社会には良いこと悪いことがあるけど、豊田くん然り、良いだけの人間なんていないと思うよ。
豊田:はい、僕もウソつくし(笑)。原発とか何かあって、多くの人が一斉に反対のほうになびいていったことは気になってました。良い大人が「あの政治家クソだ」とか言うとか。「みんなもうちょっと普通でいいのに」と思った。ただ、皆のモヤモヤしたエネルギーはすごく感じていたから、久しぶりに『テレクラキャノンボール』を見たときは、居場所として健全な感じがしました。
松尾:さっき豊田くんが言ってくれたように、生きた言葉がちゃんと入っているので、それを受け止めてもらってどう思うのかは個人の自由。提示できてよかったと思ってる。これを観て酷いなと思う人はそれでいいと思うし、そういう反応を得ることも含めてまず表に出しちゃった方が良いのかなって気がします。◯◯◯を出してみたら意外に喜んでもらえる、ということにしても。
豊田:21年ずっとAVを何本もつくっている松尾さんの撮影と編集のそのテクニックありきですよね。面白いと楽しめた反面、もっともっと道を極めないとああいう風にはできないな、と感じさせられましたね。テクニックの部分は、サボったらおしまい。
松尾:でもあれは何も感じずに見れるよ。豊田くんも僕もそうだけど、何十年いろいろあってもずっと何か形にはしてる、っていうのは似てるかもしれない。瞬発力があるとか天才肌の人って僕の周りにもいっぱいいて、バクシーシ山下とかが典型的な例ですけど、気分のムラがあったり、感覚が研ぎ澄まされているが故に敏感なところがあったり、極端に鈍感なところがあったり、要するに振れ幅が大きいんですね。僕なんかは振れ幅の少ないコツコツタイプで、豊田くんもそうかもしれない(笑)。
豊田:(笑)。
松尾:でも僕個人はどっちかというと破滅天才型に憧れていて。僕は、僕のつくっているものとか全然好きじゃないんですよ。バクシーシ山下のように、みんなの心に思いっきり傷跡を残すような一本があれば良いなって思うし、20何年休まずAV作りつづけているような人よりも、彼のような人のほうが好き。「5年くらい何もしなかった時代がある」みたいなの、かっこいいじゃないですか(笑)。それで言うと、豊田くんの音楽は、ぐわっと鷲掴みされる部分と、つかみ所のない部分が両方ある。わけのわからんこともやるし、まっとうでストレートなところもあるし、白か黒かじゃないっていう部分が好きなんじゃないかな。本人はいたってパキッてやってるって言うんですけど(笑)。