エビ中 × 村田有希生、9nine × 石井秀仁……アイドルとロックの名コラボを読み解く
ここ数年で急激にアイドルとロックの距離は縮まった感がある。アイドルがロックフェスに出ることも、ロックバンド/アーティストがアイドルに楽曲提供をすることも珍しくはなくなった。こと楽曲提供で言えば、新人育成を加味して大御所アーティストがプロデュースすることや、意外性や話題性を踏まえて、ということも古くから取られてきた形ではあるが、ジャンルが多様化する現在のアイドルシーンではますます増えてきている。ただでさえ、リリースサイクルの早いアイドルシーン。奇抜さや目新しさに埋もれてしまったり、ブレイク以前がゆえに関心度が少なかったものもあったりする。そこで、“あえて今ここで”振り返っておきたいロックとアイドルポップスのコラボ/楽曲/グループに触れてみたい。
私立恵比寿中学 × 村田有希生(my way my love)
私立恵比寿中学の最新シングル「バタフライエフェクト」作詞・作曲・編曲はU-re:x(ユーリックス)。この名前にピンと来ない人もいるかと思うが、my way my loveのギター・ボーカル村田有希生によるプロジェクトと言えばおわかりだろう。ドラムセットに突っ込むほどのアグレッシブなステージが印象的な、海外でも精力的活動しているノイズ交じりのオルタナティブ・ロック・バンドだ。BUCK-TICKの櫻井敦司への楽曲提供や、LUNA SEAのINORANソロのサポート、X JAPANのhideイベント「MIX LEMONed JELLY」への参加などでも知られる。
メインストリームとは離れた印象の強いアーティストがアイドル楽曲を手がけるというのも、ノンジャンル化が進む近年のアイドルポップスの一つの傾向である。とは言え、バンドの方向性とは反対の、キャッチーで耳馴染みの良いメロディーの曲は、もともとボブ・ディランに憧れて音楽を始めた村田の得意とするところにあるように思う。
9nine × 石井秀仁(GOATBED)
Perfumeのあ〜ちゃんこと西脇綾香の妹である、9nineの西脇彩華(Cha-pon)を、GOATBEDの奇才・石井秀仁がサウンドとアートワークの面でプロデュースしたのが、Ordinary Venus(2008年)である。山下久美子「赤道小町ドキッ」や工藤静香「慟哭」を始め、早見優「夏色のナンシー」、Babe「I Don't Know!」など、30歳後半以上の世代なら思わずニヤリとしてしまうような楽曲を、エレクトロ・テクノアレンジで生まれ変わらせている。歌メロを活かし原曲の持ち味を殺さず、かつ新鮮なアレンジは、自らも吉川晃司などのカバーを多く手掛ける石井の得意とするところ。Cha-ponのクセのない素直な歌もあいまって、聴けば聴くほど完成度の高さを感じるアルバムだ。
石井秀仁と言えば、ヴィジュアル系ロックバンドcali≠gariのボーカリストとして、艶めかしい歌声と、妖しくも圧倒的なフロントマンとしての姿が印象に強いが、別プロジェクトのGOATBEDでは、ニューウェーヴ・テクノを基軸としたクリエイターとしての顔を持つ。音楽書籍『ディスク・ガイド・シリーズ #011 UKニュー・ウェイヴ』(2003年シンコーミュージック刊)の寄稿やヴァージン・レコード30周年記念オムニバス『EXPERIMENT』(2003年)などの監修も行なっており、その道での造詣も深い。
さくら学院 × パッパラー河合(爆風スランプ)
爆風スランプのギタリスト、パッパラー河合と言えば、ウッチャンナンチャンのテレビ番組から生まれた、ポケットビスケッツのプロデュースを思いだす人も多いだろう。近年ではパッパラーと同じアミューズ所属の、さくら学院「顔笑れ!!」(2013)を手掛けている。そしてアミューズ以前、アクターズスクール広島時代のPerfume(当時は“ぱひゅ〜む”)のインディーズデビューシングル「OMAJINAI★ペロリ」を手掛けていたことはあまり知られていないことなのかもしれない。