新刊『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』インタビュー(前編)

市川哲史が語るリスナー視点のポップ史「シーンを作るのはいつも、愛すべきリスナーの熱狂と暴走」

 1980年代から活動を続ける音楽評論家であり、現在、甲南女子大学でメディア表現についての講義も行っている市川哲史氏が、リスナーの立場から見たポップ・ミュージックの変遷を追った書籍『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』を、4月19日に上梓した。日本のポップミュージック全般について執筆活動を展開しつつ、特にV系シーンを独自の解釈で読み解いてきた同氏は、最近の音楽シーンをどのように捉えているのか。インタビュー前半では、氏が大学の講義の中で見出した音楽リスナーのあり方の変化から、リスナーが作り出すコミュニティの意義、さらにはV系シーンの現状まで、痛快な語り口で論じた。聞き手は藤谷千明氏。(編集部)

市川哲史が女子大の講師になった理由

ーー『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』はリスナーの立場から見た、ポップ・ミュージックの変遷を追った本でもありますが、ご自身が講師をやっていらっしゃる大学の講義がきっかけで誕生したと。

市川:実際の講義のレジュメに沿ってはいるけど、実は書き下ろし部分も多かったりします(苦笑)。たまたま3年前に旧知の大学教授から「授業やります?」って話がきたので、アーティスト論や作品批評といった従来のスタンスとはまったく違うやり方――これまでの音楽をいまの若者の立場から一緒に考察してみようという形で試しに初めたというところですかね。文学部メディア表現学科の授業なので、「メディア」ってところにひっかかっていれば自由にやってよかったので。

ーー年齢の離れた女子大生を相手に授業をするのはどうでしたか。カルチャーショックやジェネレーションギャップもあったと思いますが。

市川:今自分が53歳なので、「こんな若い女子たち相手に音楽の話するにはどうしたらいいのか!?」ってところからのスタートですよ。まずアンケートをとってみたら、「CDを買って聴いてる」と答えたのは全体の半分以下。おそるおそる「好きなアーティストがいる・いない」や「一旦好きになったらどのくらいの期間好きか」という項目も入れてたんですけど、「1年以上好き」という回答が本当に少なくて……1クールや半年単位で好きなアーティストが変わっちゃうわけよ! そりゃ好きなアーティストだからインタビューを読みたい的な欲求なんか、当然生まれてきませんわねぇ。まさに音楽誌死亡遊戯。

ーー月刊誌のサイクルだともう追いつかないですよね。

市川:もう音楽に「アーティスト」を求めてないですよねぇ。そんな無惨な状況下でも音楽はパッケージメディアでちゃんと聴いてくれる、昔ながらのいわゆる音楽ファンが棲息しているのはやはりジャニーズかヴィジュアル系(以下、V系)。100人いたら10人くらいV系ファンがいたりして予想を覆されました、まだこんなに生き残ってたのかと(失笑)。しかも全盛期を目撃したことないはずのX JAPANが人気だったり。。ジャニーズのファンはJr.を中心にいまだに増え続けてるし――KPOPは最近は減少傾向だなぁ。飽きられたのかしら。意外に支持者が多かったAKBも今年はほぼ全滅、女子大生はAKB48を見限りましたな(愉笑)。その分ももクロファンが増殖してるんだけど、意外なのはモー娘。ファンが根強くて、低迷期も見捨てず現在のプロフェッショナル・モー娘。まで見届けている学生が、毎年10人くらいいたりします。こうした子たちが対象だから、彼女たちが興味のある素材をテーマに据えるのが妥当でしょ? ただ、この本に書いてあることっておそらく、生粋のジャニーズファンやKPOPファンからみたら「今更言われなくても、こんなこと知ってるよ」ってことばかりだとも思うんです。でもマニアじゃない門外漢からしたら知らないことも多いし、視点が違うからやたら面白がれるわけです。そういう意味では、基礎知識をきわめて恣意的(苦笑)に与えてあげることが重要だと考えました。これは学生に限らず、一般の音楽ファンにも通ずる理屈なわけで、この本を読んで「様々な音楽に詳しくなった」と勘違いする人が出てきたら最高です。わははは。

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