宇野維正が「The Mrs. Carter Show World Tour」英国公演を目撃

ビヨンセが体現するセクシーな「一妻一夫主義」 ロンドンO2アリーナ公演速報ルポ!

ロンドンのO2アリーナで最新型にして進化形の「The Mrs. Carter Show」を展開したビヨンセ。

 3月6日、ロンドンのO2アリーナでビヨンセの最新ライブを観た。ご存知の通り、ビヨンセは昨年12月13日に突然iTunes Store独占先行で5thアルバム『BEYONCÉ』(日本盤も今年2月12日に発売)をリリース。現在、彼女の輝かしいキャリアの中でも最速最大のアルバムセールスを記録中だ。今回の「The Mrs. Carter Show World Tour」は昨年4月15日にベオグラードでスタートした2年越しの大規模なツアー。『BEYONCÉ』のリリースを挟んで、今年2月20日にグラスゴーから再スタートしたツアー後半戦では、『BEYONCÉ』収録曲がセットリストに新たに組み込まれ、言わば最新型にして進化形の「The Mrs. Carter Show」が展開している。自分が目撃したのは、ロンドン6回公演(昨年の6回公演と合わせると一都市で実に約24万人の動員!)の最終日だった。

 それにしても「The Mrs. Carter Show」である。そのまま訳すなら、「JAY Z夫人ショー」(JAY Zの本名はショーン・コーリー・カーター)。フェミニズムの象徴として崇拝されてきたビヨンセにとって、このツアータイトルには多分に挑発的な意味が込められている。マイケル・ジャクソンにとっての世界平和、マドンナにとっての古い宗教観/セックス観からの解放、レディー・ガガにとっての弱者/セクシャルマイノリティへの勇気づけといったように、多くの世界的スーパースターはある種の政治的命題を抱えてきたが、その意味において、これまでのビヨンセが体現していたのは「女性の自立」だった。実際、この日のO2アリーナは、黒人白人問わず、オシャレな女の子からちょっと野暮ったい女性まで、まるでロンドン中の20代〜30代の女性が総集結したかのようだった。ビヨンセはそんなオーディエンスを前に、過去の「インディペンデント・ウーマン」宣言から一歩踏み込んで、音楽やファッションやアートの世界では保守的な価値観とされがちな旧来の「婚姻関係」を、先鋭化したフェミニズムの一形態として攻撃的に提示していく。

 極めつけは、《私、お酒が入ると、淫らになるの》と腰をくねらせてストリッパーのように踊りながらJAY Zを呼び寄せ、ステージ上で二人がもつれ合う「ドランク・イン・ラヴ」。ロンドン公演ということで実現したスペシャルな夫婦共演だったが、《俺のクリント・イーストウッド級(※44マグナム級の男性器のこと)の反り返ったモノを扱いきれるといいけどな。玄関で前戯を楽しんだせいで、ウォーホール(※JAY Z&ビヨンセ宅の玄関に飾ってある絵画のこと)が台無しだぜ。パンティーを横にズラせよ》というJAY Zのラップの突き抜け具合も含めて、まさに夫婦まな板ショー状態。オーディエンスの興奮も極限に達し、ダブステップのリズムで2万人全員がシングアロングするという、これまで見たことがないような壮絶な風景が繰り広げられた。

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