瀧見憲司(クルーエル・オーナー/DJ)インタビュー(後編)

「音にフォーカスすると国境を越える可能性はある」瀧見憲司がJPOPと距離を置く理由

久方ぶりのオフィシャル Mix CD『XLAND RECORDS presents XMIX 03』で、鋭敏な音楽センスを改めて示した。

――渋谷系そのものはどう評価してますか。

瀧見:過去に開かれてたムーヴメントでしたよね。ミュージシャンにとってもリスナーにとっても。あの音楽を聴いて、皆ほかの音楽も聴くようになったじゃないですか。アーティスト個々というよりは音楽そのもののファンを増やしたという意味では、意義のある動きだったと思います。60年代のサンフランシスコみたいな感じで、渋谷に来てドラッグの代わりにレコード買ってたという(笑)。今はそういうリサイクルの幅がすごく狭くなっているでしょう。渋谷系の時代とは反対にリスナーが音楽史を遡ったり、過去の音楽を聞かなくなっている、という感じはしますね。ロックにしても、孫引きのリサイクルみたいなのばかりになってる。でもDJは過去のものを聴かなきゃ絶対できないですからね。最近面白いと思うのは、今の20代ぐらいのハウスやテクノのDJって、90年代ぐらいのハウスやテクノをレア・グルーヴとして買い漁ってるんですよ。こんなのが欲しいのか!っていうようなものを(笑)。ちょっと前の100円コーナーで叩き売られていたようなレコード。逆に今、そういうのは探せなくなっているから。それを、当時を知らない若者が、このレコードのB面がヤバイって言って探してるという。もちろん新しいジャンルやムーブメントと一緒に出て来る時に新譜だけしかかけないってDJもいるけど、そういう風にやってきた人はいずれ行き詰まる。その後どうするかっていうのは、絶対直面する問題ですね。

――なるほど。ほかにクラブの現場の変化について思うところはありますか。

瀧見:うーん、今は厳しいと思いますね。世代交代のこととか風営法の問題も含めて。あと、音だけならクラブに行かなくても聴けるじゃないですか。ネットで人のDJミックスをいくらでも聴ける時代だし。でもそれではクラブの魅力は伝わらない。一方で、今の日本のジャーナリストでクラブの現場にまめに足を運んでいる人ってほとんどいないと思うんですよ。年齢的な問題もあるし……。

――すいません(笑)。

瀧見:実際、朝まで5時間いろって言われても難しいでしょう?

――はい、確かに(苦笑)。

瀧見:音そのものだけでなく、クラブ的な体験まで含めて、その魅力をきちんと言葉で伝えることのできる人や場が少なくなっている気がしますね。だから(客の)年齢層がすごく高くなってる。アラサーとかアラフォーの世界ですよ、クラブに来る人たちは。高年齢化によって懐古主義の壁を越えられなくなってるんですよ。それを体験していてもしてなくても、昔はよかったなあって。特定のジャンルだけでなく、クラブ全体がそうなってると思う。ロックもそうなのかもしれないけど。

――若い人にクラブの魅力を伝えきれてないから。

瀧見:風営法の問題も大きいですけどね。そのことに限らず、今若い世代に向けて「批評」というものが極端に少なくなっている。メディアもアーティストの言うことをそのまま載っけてるだけで、ジャーナリスト的な視点が欠落しちゃってる。読み手の側もそれを求めていないっていうのが寂しいですね。だからウチの作品もレコードに関しては媒体には何も載らないんですよ。載らないけど、そこそこの数は出てビジネスとしては成立してる。レコード屋のバイヤーの人のレビューだけで成り立っている。

――そのへんは元ジャーナリストとして忸怩たるものがある。

瀧見:自分が読みたいと思うものを書いてる人がいないっていうのも、正直あるんですけどね。クラブ文化に関しては、なかなか現場に来ることが難しいのはわかるし、またそれを文章にするのも難しいというのも理解できるけど、そこで現場とメディアがどんどん離れていってる。離れていても成り立ってしまっているのが現実のマーケットと構造なんですね。

――でも、それは必ずしも悪いことばかりじゃないですよね。

瀧見:うん。そういう目に見えない小さなマーケットはあちこちにいっぱいあるんじゃないかな。「Jの経済圏」からは離れていても。クルーエルの場合も、たとえ数百枚単位でも、必要とされて、そこから違う国や文化圏に着実に広がっているという、しっかりとした手応えがありますからね。そこはヴァイナルにこだわってやってきた意味のひとつでもあると思う。
(取材・文=小野島大)

■リリース情報
『XLAND RECORDS presents XMIX 03』
発売:2013年10月9日
価格:¥2,520(税込み)

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