『レディ・バード』は愛があるからこそ羽ばたいた 『半分、青い。』にも通ずる母娘の複雑な関係

『レディ・バード』が描く母娘の複雑な関係

 ドラマ『13の理由』シーズン2で、自殺したハンナ(キャサリン・ラングフォード)の母オリヴィア(ケイト・ウォルシュ)が、生前の娘を褒めてあげられなかったことを後悔するシーンがある。ハンナがきれいに写った写真をオリヴィアは「この角度はよくない。それはいい、でもアゴが目立つ」とケチを付けながら眺め、「いいのよ全部消すから。一生写真には写らない」と浮かない顔で少々怒りを含みながらハンナは答える。

 「親に認められたい」というのは子供なら誰しも抱える願望だが、親が素直に応えられないことで壁が生じるパターンもある。6月1日に公開された映画『レディ・バード』でも、がんじがらめになった母娘の姿が劇中で描かれていた。主人公クリスティン・マクファーソン(シアーシャ・ローナン )は、自分に“レディ・バード”と名付け、周りにもそう呼ばせている少し変わった17歳の少女。閉鎖的な田舎町サクラメントから、大都会ニューヨークの大学へ進学することを切に願っている。(ちなみに、本作の仮タイトルは『Mothers and Daughters』)

 ちょうど現在放送中のNHK連続テレビ小説『半分、青い。』でも、岐阜県東美濃市から大都会・東京へ羽ばたいた1羽の“バード”がいる。永野芽郁演じる主人公・楡野鈴愛だ。レディ・バードの母マリオン(ローリー・メトカーフ)と違い、鈴愛の母である晴(松雪泰子)は子供をしっかり褒めることができる親だが、マリオンと同じく子離れに少し苦労していた女性だった。レディ・バードと鈴愛が都会へ移ることを告白したとき、マリオンも晴も取った行動は子供にとって残酷な“無視”で、さらに両者ともに娘の成長を低く見積もっていた。

 この母親たちに共通しているのは、どちらも性格は違うものの、娘に依存していたことだろう。「世の中はあなたに期待していない」と冒頭車内で娘に話すマリオンと、「世の中はいい人ばっかりやない、悪い人もいる。あんたはそういうことを知らずに生きてきた」と居間で語りかける晴は、おかしいくらい似ている。2人とも世間知らずの娘を説教する裏腹、自分の元から離れてほしくない寂しさを抱えていて、巣立つ準備を進める鳥を籠の中に押し込めようとした。「わたしがあの子に“鈴愛”なんて名前つけたもんだから、遠くに飛んでいってまう」。これは晴の言葉だが、本音を怒りで覆い、胸の内をなかなか打ち明けられずにいたマリオンも、きっとこう思っていたに違いない。

 母と娘の関係は、母と息子の組み合わせよりきっと複雑だ。母親というのは同性であるがゆえに、無意識のうちに娘を自分の分身とみなし、人生を乗っ取ろうとしていることすらあるらしい。アリソン・ジャネイが第90回アカデミー賞助演女優賞に輝いた、実話ベースの『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でも、ジャネイ演じるラヴォナは、貧困脱出のカギとして娘トーニャ(マーゴット・ロビー)を利用し、プロのフィギュアスケーターまで育て上げている。ラヴォナはマリオンたちとは違い、思い通りに行かなかったら手が出る生粋の“毒親”であったが、少なくとも母の娘への依存は、娘の人生に大きな影響を及ぼす。

 鈴愛はお調子ものな性格と軌道修正してくれる律(佐藤健)のおかげで、考えをおかしな方向へこじらせることはなかったが、レディ・バードは自分が置かれている状況ほとんどにコンプレックスを持っていた。サクラメントというダサい街を抜け出したい。高級住宅街“13区”に住みたい。処女を捨てるなら童貞がいい。演劇部じゃなくてクラスの人気者とつるみたい……。彼女が抱える一連の劣等感の原因の1つは、マリオンにあるように感じた。というのも、あまり褒められずに育った子供は、無意識のレベルで自分を否定しやすい傾向にあるからだ。極まると“不幸でいないと不安”という心理状態まで陥る。

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