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パキスタン出身男性が主人公の恋愛物語、『ビッグ・シック』はなぜ観客から支持されたのか?

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 サンダンス映画祭で初公開された瞬間から、映画会社による争奪戦が繰り広げられたという恋愛コメディー映画『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』。低予算映画ながら評判を呼んで興行的にも好成績を収め、現在までに15の映画賞を獲得、81ものノミネートを果たし、来るアカデミー賞では脚本賞候補に食い込むなど大健闘を見せた作品だ。ここでは、そんな本作が話題を集め、観客から支持された理由に迫っていきたい。

 原因不明の病気によって、昏睡状態になることを余儀なくされた一人の女性。眠り続ける彼女の目覚めを待ち続ける一人の男性。『眠れる森の美女』のようなロマンティックな設定だが、本作は実在のカップルの身に本当に起こった出来事を基にした物語が描かれている。そう聞けば、感動の「難病恋愛もの」なんだろうと思ってしまうが、全体に散りばめられたユーモアが、本作をより軽やかなロマンティック・コメディーに仕上げている。それもそのはずで、主人公の男性クメイル・ナンジアニは、舞台に立つパキスタン出身のコメディアンなのである。彼のユーモアととぼけたキャラクターが、ややもすると重くなってしまう本作の印象をガラリと変えているのだ。そのクメイルを、実在するクメイル・ナンジアニ本人がそのまま演じている。

 日本では、パキスタンは比較的馴染みが薄い国というイメージがあるが、それはアメリカも同様で、クメイルは出自を活かして、知られざるパキスタンのネタを面白おかしく語ることを舞台でネタにしていた。そのネタ中にヤジをとばしてきた大学院生の女性エミリーを、クメイルは終演後に酒の席で口説き落とし、自分の部屋に連れ帰ってしまう。翌朝、酔いが冷めた彼らは、車中で「もうお互い会わない方がいいよね」と意見の一致を見せる。これが、おとぎ話らしくはないクメイルとエミリーの出会いのエピソードだった。2人の関係の障壁となるのは、「親が見つけた相手と見合い結婚する」という、パキスタン家庭の風習である。エミリーはパキスタン人でもイスラム教徒でもないため、クメイルは家族に彼女を紹介できないのだ。

 パキスタン出身の男性を主人公にした恋愛物語というのは、従来のアメリカ映画の常識からいうと、ちょっと考えにくい題材である。下手をすると、「ホワイトウォッシュ(本来の人種を差し置いて、主役を白人に置き換えることで特定の人種の職を奪うこと)」されていたケースであったかもしれない。だが、状況は変わった。いまやアメリカ映画界は、人種を含めたあらゆる多様性が最も重要なトピックとして注目される先進的なフィールドとなっているのだ。本作は様々な人種が共存するアメリカの実相を表した題材によって、まさにアメリカの多様性を代表する作品の一つとして機運に乗ることに成功したといえよう。

 本作では、クメイルがイスラム教圏のパキスタン人であるということだけで、「ISIS(イスラム過激派組織)へ帰れ」などと差別的な中傷にさらされる場面もある。アメリカとパキスタン、異なる文化風習の間でクメイルが苦悩するように、社会を形成する一人ひとりもまた、あらゆる面で多様化していく社会状況に合わせ、知識を深めたり寛容な態度をとることなしには共存することはできない。そのことを、家庭環境が全く異なった男女の恋愛を描いた本作の存在そのものが雄弁に語っている。

      

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