映画『関ヶ原』が描く新しい歴史観ーー岡田准一演じる石田三成の人物像は妥当か?

映画『関ヶ原』が描く新しい歴史観

 吉川英治による娯楽小説『宮本武蔵』のイメージが、日本国民の武蔵のパブリックイメージを作ったように、いま日本で多くの日本人の頭の中にある坂本龍馬も、『竜馬がゆく』で司馬遼太郎が創造した、かっこいい“坂本龍馬像”なのである。以後の作品が、それらベストセラー小説のイメージに乗っかるかたちで、宮本武蔵や坂本龍馬を同様のキャラクターとして描いたために、そのイメージはさらに強固なものとなっている。また司馬作品は、NHK大河ドラマなど多くの映像作品の原作となっているのも大きい。「明治時代は良かった」という一部の歴史観を醸成する一翼を担ったのも彼である。

 時代小説や時代劇は、当然ながら史実とは異なる。それはドキュメンタリーのようなアプローチで、表面的に強いリアリティを感じる『関ヶ原』も、また同じことだ。本作が「かいわれさん」なる老人の怪しげな与太話として、物語を始めるという構図を残しているというのは、その前提を強調するためであろう。

 では、そのようなフィクションを利用して、映画『関ヶ原』が描こうとしたものは何だったのだろうか。それは、「正義を信じ理想を貫こうとする純粋な武将」として新たに創造された、本作の“石田三成像”と、他の登場人物との関係によって分かってくる。三成は、かつては理想に燃えて、より良い天下を作ろうとしていた豊臣秀吉が、周囲の環境によって堕落し、天下そのものが「利によってのみ動く」人間ばかりになってしまったことを嘆いている。その代表的な人物が、「狼のような野望を持って天下を手中に収めようとする武将」徳川家康なのである。

 前述したように、もしも石田三成が勝っていれば日本は、いまの日本とは違うものになっていたことは確かである。本作はここに、利益第一主義に奔走する現代の日本社会という問題を持ち出し、その原因を、三成の死、すなわち“正義の死”として表現することによって、現代的な視点からの思想的な意味づけを与えているのだ。そして、運命が決する「関ヶ原の戦い」に悲劇性とダイナミズムを与えようとする。果たして、ここに説得力を持たせられたかどうかというところが、本作を評価するポイントとなるだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『関ヶ原』
全国公開中
出演:岡田准一、有村架純、役所広司、平岳大、東出昌大ほか
監督・脚本:原田眞人
原作:司馬遼太郎「関ヶ原」(新潮文庫刊)
製作:「関ヶ原」製作委員会
製作プロダクション:東宝映画/ジャンゴフィルム
配給:東宝=アスミック・エース
(c)2017「関ヶ原」製作委員会
公式サイト:http://sekigahara-movie.com/

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